2012年12月17日
リバース・イノベーション
クリステンセンのイノベーションのジレンマは、秀逸な本でいわゆる創造的破壊の構造を上手く書いたものです。トランジスタラジオは従来の真空管のラジオよりも、低価格ですが、音質がかなり悪いものでしたが、その低価格ゆえに全く新しい顧客を生み出すことができました。そして、しばらく経つと、トランジスタラジオの性能が進化して、性能的にも真空管ラジオをしのぐものになります。
このリバース・イノベーションは、このイノベーションのジレンマの実践版とも言える本です。リバース・イノベーションというのは、新興国向け商品のイノベーションを、先進国に逆輸入するといったものです。
これは、商品の海外展開という時に以前は先進国から先進国への輸出だったので製品の微調整といったローカライズでよかったのですが、先進国から新興国への輸出は注意点がいくつかあります。それは、先進国の製品から機能を削った廉価版ということでは売れないということです。例えば先進国で8万円で売っているテレビを小型にして少し質を落として4万円にしても売れないということです。そうじゃなくて、2万円や1万円のテレビを作らないといけないということです。テレビの場合は小型にすればいけそうですが、多くの場合は根本的に違うものを作らないといけないということになります。
また、商品によってはインフラの違いによる別のことを考えないといけません。例えば電力が不安定なのでバッテリーをつけないといけないかもしれませんし、食器洗浄機ならば井戸水や汚い水をろ過しながら食器を洗えるようにしないといけないかもしれません。例えばタイマー機能を削ったり、音声のお知らせ機能を削るといったようにある点では低機能にするにしろ、別の面(特に生活インフラのサポートのため)では高機能にしないといけないのです。
従来のイノベーションのジレンマ型の破壊的イノベーションが6割や5割の価格で7割の機能を満足すると仮にするならば、リバース・イノベーションは1割の価格で5割の機能を満足するようなものを作っていくということです(すごいざっくり言って) しかも、単に機能を減らしてというだけでなく、部分的にはインフラの足りない部分を補うように作らなければなりません。
そのためにはどう作るかが大事で実際に顧客の使用が見える新興国で開発する必要があります。そしてイノベーションのジレンマなどでもよく言われるようにリソースを適切に割り振り、独立した形で開発をする必要がありません。そして、上手くいくと、ここでの開発結果が先進国へフィードバックし、破壊的イノベーション的に働くかもしれません。その時に、社内での共食いが起こるかもしれませんが、他社に食われるよりはよっぽどいいということですよね。
2012年08月15日
良い戦略、悪い戦略
企業戦略の大家らしいリチャード・ルメルトの本です。といっても、ルメルトについては初耳でした。調べたらハーバード・ビジネス・レビュー日本語版でも1記事書いているので読んだことはあるみたいですが..^^;;
この本はその名の通り良い戦略と悪い戦略についての本ですが、むしろ悪い戦略についての本に読めます。悪い戦略は以下の特徴があるものです。
・空疎である
・重大な問題に取り組まない
・目標を戦略ととりつがえている
・まちがった戦略目標を掲げる
これに対して、ある問題について適切な診断を行い、基本方針が定まり、実行可能な形にブレイクダウンできるものが良い戦略になります。
しかし、この本はポーターやバーニーの戦略についての本のように、明確なフレームワークを述べる本というよりも(本も薄いわけなので)、様々なトピック(≒視点)をもとに、良い戦略と悪い戦略の実例を少しづつ挙げていくといった構成になっています。
よって、あまりガッツリと企業戦略について述べられた本というよりも、いろいろなトピックを思うままに書いてみた本という印象です。
そもそも、戦略には悪い戦略というのはあっても、良い戦略というのはない(というか競争が本質である以上、良いかどうか分からない)というのが私の考え方なのですが..まさに、そのような動的な戦略観においては、どのように本を書くのかと言えば本書のようにバラバラと良いものと悪いものを併記していくしかないのかもしれません。そして、そこそこは面白いけど、それほど面白いわけではないのは、所詮バックミラーに映る道路を見ているだけからかもしれません。
ポーターやバーニーの本は本当かどうかはともかくとして、フロントガラスに映っていたものを見ているようなんですが...^^;;
2012年03月27日
プランB
文藝春秋
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タイトルはプランBですが、むしろ「ビジネスモデル入門」といった本です。もちろん、テーマはプランB(代替案)の重要性を書いたものなんですが...意外とビジネスモデルの概説書として優れてます。
ビジョナリーカンパニー2(1だったかも)で触れられているように、企業は意外と思ったとおりに成長しない(起業時と違うところに市場・成長をみつける)のでプランBが大事というは当然のことでしょう。そしてこのプランBが大事ということも、さんざん言われてきたことです。
しかし、この本はプランA→プランBへの移行をビジネスモデルの差異からきちんと語っているのがポイントです。”臨機応変に!”、そりゃそうでしょう、誰もがそう言います。でも、その臨機応変の構造はどういうの?
このプランBは、この問いに答えてくれます。
また、さまざまなビジネスモデルにおいて、売上・利益・キャッシュフローが何なのかということを書いてます。ビジネス書を読んでる人には、それほど目新しくはないかもしれませんが、ビジネス書初心者にはオススメです。特に起業などを考えている人でビジネスモデルというのがよくわかってない人には自分のビジネスを振り返る良い本になっていると思いました。
(そうでない人にはいまいちで、これまであった本のまとめっぽさを感じるかもしれません)
ちなみに著者のランディ・コミサーはスタンフォードの教授ですが、ルーカスアーツの元CEOだったり、クラリスの共同創設者、WebTVやTiVoの起業にも関わったとかなりすごい人でした...アメリカすげー。
2011年12月15日
ゲームの変革者
日本経済新聞出版社
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P&GのCEOのAGラフリーと、有名なコンサルタントのラム・チャランが書いたものです。
”ゲームを変える”イノベーションを起こすために、イノベーションを起こす企業文化をどう作り、どう行動するかについてP&Gを中心として述べられています。P&G以外にはデュポンの最近の取り組みなどが若干触れられています。
P&Gでの特徴は、イノベーションを作るための組織があることでしょうか?アメリカの有名な企業IDEOを思い出す、ミニIDEOともいえるスタジオを企業内に備えていて、ミニIDEOのファシリテーターが依頼部門と一緒にイノベーションを起こしているといったことをしています。
もちろんP&Gのような大きな組織でなければ、社内にミニIDEOを作らなくとも、イノベーティブな組織を作ることは可能です。それは、失敗をおそれないようにする人事体系や、他者とのイノベーションを促進するような社内規律(ディシプリン)をひくことでできそうです。また、商品開発をするような組織では、売上における新製品比率の目標値を定めるといったことを行うといったことは中小企業でも可能そうです。実際に、私が知っている抽象の企業(ソフト屋さん)でも、新製品を作らないといけないということをトップはわかっているものの、社内にそれが広がっていないので、結局、頭がわかっているけど手足がついていかないといったところが多いです。
また、新製品を作っていくということは、短期的な目標よりも長期的な目標を重視するということでもあります。部門の業績(利益)をあげるために、経費を抑えるといういわゆるボトムラインのマネージメントでなく、売上をあげるというトップラインのマネージメントを考えなければイノベーティブな企業は作れません。
この本は、イノベーションを行う企業(P&G)の一例を中心に、その企業のアレコレを細かく語っているという本ですが、中小企業も含めて多くの企業に示唆がある本だと思いました。逆に、一般的というよりも、ケース解説といった印象が強い本なので、そこが残念ですが..
2011年11月14日
イノベーションへの解 利益ある成長に向けて
翔泳社
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イノベーションのジレンマで知られるクレイトン・クリステンセン(と愉快な仲間たち)の本です。基本的にイノベーションのジレンマで書かれたことのより深い考察という形式になっています。かなり前に図書館で借りて読んでからの再読になります。ちなみに”イノベーションへの解 実践編”と違うので要注意(本書の方が面白いと思う)。
まず基本はイノベーションというのが持続的イノベーションと破壊的イノベーションの2つに分けられるという考え方です。持続的イノベーションは、ほとんどの商品ですが、例えばパソコン(Windowsパソコンほぼすべて)や車(カローラの後にクラウンを開発しても、新型カローラを作っても)といったものです。一方、破壊的イノベーションは、スマートフォン(電子手帳でもいいわけですが)やAmazonのKindleなどがあります。
基本的に破壊的イノベーションは、それまでの商品よりも、製品の品質の点ではかなり劣るが、かなり安い、それゆえにこれまで消費者ですらなかった人たち(無消費者)が購入する、というものです。上の例でいえば、パソコンでスケジュール管理をしてなかった人に、パソコンよりはるかに劣る電子デバイスをスケジューラとして電子手帳やスマートフォンがあり、AmazonのKindleは紙の本ほど読書には向いていないがその分たくさん持って歩けてどこでも本をすぐ買って手元に届くというものです。他にも初期のトランジスタラジオは、音は真空管ラジオほどよくないものの安価で小さかったので、子供(青年)が自分の部屋で聞くことが出来たというのもあります。
この破壊的イノベーションと持続的イノベーションは根本的に違うものであり、企業の戦略にしても、投資にしても異なるプロセスを踏まなければならず、それらがどう違うのか、が本書のポイントです。そして上手く行った破壊的イノベーションを軸とする事業はいずれ大きくなり、持続的イノベーションになっていきます。これは、製品開発や研究開発のプロセスの違いという面もありますが、むしろ求められる売上規模・利益規模の違いでもあります。
このように製品がいずれシフトしていくという見方は、ジェフリー・ムーアのキャズム理論を別の視点から切り取ったとも言えます。また、品質の点で劣るがかなり安く、それゆえにそれまでの無消費者を取り込むというのは、キムとモボルニュのブルーオーシャン戦略にも通じるところがあります(僕は後者はあまり好きではありませんが)
それにしても、クリステンセン関係の本はどの本を読んでもわくわくさせられます。僕が新規事業畑(?)にいたというところが大きいのかもしれませんし、イノベーションというロマンに魅せられているからかもしれません。
読んでない方は下もぜひ。一番好きなビジネス書の一つです。
翔泳社
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2011年08月31日
グランズウェル
翔泳社
売り上げランキング: 2874
ここ2,3ヶ月でフェースブックで売上アップ、ついったーをビジネスに活かすといった本が非常に増えていて、大きな本屋さんに行くと本棚の1/3くらいがこういった本で溢れています。まず、プラットフォームありきのこの現象には非常に違和感を感じるのですが、一方でこういったものを煽って一儲けしようというセミナー屋さんやコンサルタントの先生方はいろいろな本を出しているようですね。
このグランズウェルはサブタイトルが”ソーシャルテクノロジー”による企業戦略とあるように、まさにこのようなソーシャルメディアの使い方も含めた企業戦略についての本です。
よくある”フェイスブックで売上10倍アップ”は、まずフェイスブックを使うことが前提でその上で売上10倍アップと煽ってますが、本来はフェイスブックというチャネルやプロモーションを使う前に、決めることがあるはずです。
この本では、POSTとして、
People 人(顧客)
Objective 目的
Strategy 戦略
Technology 技術
を上から順に規定していくことを述べています。当然のことながら、テクノロジーは最後に選択するものということですよね。ちなみに、日本では逆になることがとても多いと思います。”ソリューション”を提案しているIT屋さんも技術のみの提案でしかなく、戦略部分はプレゼン資料にある”うまくいった例”を繰り返すだけといったことがよくありますよね?
そして、そもそも、このPOSTで企業の戦略を決める際にも。そもそもソーシャルテクノロジーを使って、ブロゴスフィア(≒ネット社会)と積極的につながるかどうかを決める必要があります。例えば、掲示板を公開してブロゴスフィアとつながることを決めた場合には、多くの批判が押し寄せるなどのリスクもあり、コントロールを失ってしまうおそれがあります。このコントロールを失うという不確実さを認めた上で、それを活用していくという度量が企業に要求されるのです。
もちろん、自社のサイトに批判が集中するのはまだチェックしやすい分マシで、現在は他者からの評価や評判を免れない時代ということもできます。
あ、この本の内容自体はPOSTというべき、戦略・目的の例がずらずらと書いてある本と言えます。包括的な体系を作った本というわけではないですが、このようなソーシャルメディアを含めた企業戦略について非常に多くの示唆を与えてくれる本だと思います。
ちなみに知人とこの本のフレームワークをベースにいくつか修正をして現状分析をしたところ、その知人はまだソーシャルメディアに力を注がなくて良いという結論になりました。POSTを明確にすることが大事であって、ソーシャルメディアありきが常にベストな戦略ではないということですよね。
2011年07月18日
ホワイトスペース戦略
阪急コミュニケーションズ
売り上げランキング: 2687
クリステンセンと一緒に会社をやってるマーク・ジョンソンの新作です。
イノベーションのジレンマが状況を説明する本だとすると、この本は、イノベーションのジレンマ実践編といった本です。(え?それが”イノベーションへの解”だろって?) ”ストーリーとしての競争戦略”、”ブルーオーシャン戦略”、”イノベーションのジレンマ”といった本の延長にあります。
ちなみにポイントは”ホワイトスペース”(自社のコア顧客とその隣接スペースでなく、さらに自社が経営資源のシフトをしないといけないようなスペース)へ移行していかないといけないといったことがポイントになります。
このフレームワークを説明している本ですが、非常にすっきりと、イノベーションのジレンマ的状況とその対応をまとめている良著と思いました。実はあまり期待してなかったのですが、想像以上に面白かったです。
今年はあまりビジネス書を読んでませんが、暫定首位です。すごく読みやすいし、是非読んで欲しい一冊。
ちなみに以下の本も一緒に読むと楽しめます:-)
翔泳社
売り上げランキング: 461
翔泳社
売り上げランキング: 157584
ランダムハウス講談社
売り上げランキング: 1074
東洋経済新報社
売り上げランキング: 559
2011年07月12日
ネオコンの論理
9.11後に書かれたアメリカとヨーロッパの軍事観をアメリカ視点から書いた物です。
原題は、of paradise and power(楽園と力について)です。我々日本人が信奉するソフトパワーに対してのハードパワーについての本といったものです。
ヨーロッパがカント的な世界観(永遠平和のために)を持っているのに対して、アメリカはホッブスのいうリビアタンとして(つまり外部の権力者として)あろうということが、2つのエリアの軍事観を分けているという主張です。
そして、力を持つものは、それぞれの状況に応じて違う見方をするということになります。つまり、地域紛争を、「対話で解決すべきもの」とみなすか、「危機とみなすか」といった見方そのものもかわってきます。
このような世界観の違いはまた、国際問題での関わり方や、軍備にももちろん影響をしていきます。最近はアメリカのドクトリンは変わってきたかもしれませんが、もともとは2つの地域で同時に戦争を出来るだけの軍備というまさにリビアタンとしての軍事力とアメリカは担ってきたということなのです。
2010年01月01日
戦略の不条理
菊澤研宗著
光文社新書 760円
初版: 2009年10月
この本は戦略全般についての本で、ポパーの3つの世界というフレームワークを使って、様々な戦略について述べています。
戦略について、このフレームワークを通して、クラウゼヴィッツとリデルハートの戦略論、そして孫子的な戦略を述べています。
クラウゼヴィッツの絶対戦争は世界1にしか注力しておらず、世界2である感情を考慮していないために、問題があるとしています。この世界1と世界2のギャップが、実際に結果に反映していくとしています。
企業戦略についての分析はおまけ程度で行われていますが、このフレームワークはどこにでも適用できるものです。
「開かれた社会 開かれた宇宙」の書評
http://books.yamazaki-shinji.com/article/23907139.html
「よりよき世界を求めて」の書評は...なかった orz
リデルハートについては「間接的アプローチ戦略」がオススメです。書評は....書いてなかった orz
2009年09月19日
企業戦略における正当性理論
山田啓一著
芙蓉書房出版 1700円(税別)
初版: 2008年8月
サブタイトルは”レピュテーション経営を志向して”です。
レピュテーションは正当性やブランドを含む上位概念です。また、正当性にはコンプライアンスを含む概念です。ブランドやコンプライアンスといった視点では様々な本がありますが、レピュテーションという概念に関する本ははじめてでした。
レピュテーションについては、社会的責任(株主、従業員、社会、関係団体等の各ステークホルダーとの間の責任)という視点のもとではISO26000としてもうすぐ規格化が行われるそうです(ちなみにISO9000やISO14000のような認証規格ではない)。
レピュテーションについては、顕示性、独自性、真実性、透明性、一貫性といった対象の軸、獲得ステージ、維持ステージ、修復ステージというステージの軸の2軸での分析というフレームワークが説明されています。
正当性についてもフレームワークでの説明が述べられていますが、常識の範囲内で分かる範囲でもあり、実用性という点では疑問が残ると思いました。
SRという視点で企業戦略を述べた本はあまりなく(各論レベルのものはありますが)、その点目新しくはありますが、この分野についてはまだ研究が深化していないのか、足がかりとしてはいいかもしれませんが期待して読んだだけに少し残念でした。
