2011年12月18日

アルケミスト

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)
パウロ コエーリョ
角川書店
売り上げランキング: 545


8、9年まえに読んだのですが、久々に再読しました。

以前、読んだ時はかなり素敵なお話だったという印象だったのですが、今読むと違和感を感じました...また、以前はキリスト教っぽいと思っていたのですが、読み直すとキリスト教っぽいというよりもニューエイジっぽいなぁと感じました(コエーリョはやっぱりニューエイジのようですね)

内容は、南スペインの羊飼いの少年が、アフリカへ宝探しの旅に出るというものです。そして少年は旅の途中で、商人や錬金術師などと出会います。

この物語は、よくある”往きて帰りし物語”の構造を持ったいかにも寓話っぽいものです。それはいいのですが、そこかしこに見られるニューエイジ臭が鼻についてしまったので、改めて読み返すとイマイチだなー、と感じてしまいました。

posted by 山崎 真司 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2011年11月20日

城 (新潮文庫)
城 (新潮文庫)
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フランツ カフカ
新潮社
売り上げランキング: 26943



カフカの未完の大作です。審判や変身と同じ世界観ですが、これはユダヤ的な世界観でしょうか。つまり絶対的な律法の世界観です。キリスト教的な”赦し”がある世界ではなく、畏敬の対象である圧倒的な支配する力です。

これは、教会の塔にも似た城という形で、主人公Kの前に表れますが。実際には眼前に現れるのでなく、この城の見えない支配の力が主人公Kを圧倒します。ちなみにKはもちろん、カフカのKでしょうが、私は読みながら何故だかキルケゴールをイメージしてました。いや、この重々しい香りと方向性は違うかもしれないが漂ってくる宗教臭が似ているからでしょうか?

このK以外の登場人物は、すべて職業という形でラベリングされたものです。それぞれがどこかおかしいけど、それぞれの視点としてはまっとうというキャラとKが繰り広げるドタバタコメディーなのですが、実際にはメタ的な視点でのコメディーであって、全体的には鬱屈とした前に進まない感じがこの城の特徴です。


別の視点からこの本を読むとすると、ミシェル・フーコーのパノプティコンといった視点なのでしょうか。まぁ、フーコー嫌いなんでアレですが、圧倒的な監視の力という絶対力があたかも神の偉力のように隅々まで行き渡っています。そして、主人公であるK以外のすべての村人も、監視されていると同時に、監視する主体として城というシステムに組み込まれています。この世界観を読み取るために、監獄の誕生を読むか城を読むかといえば、こちらの方が面白いと思います。小説と現代思想を並べるとその筋の人には怒られそうですが...


この小説は、読んでもグツグツグツといった感じでカタルシスがほとんどありません。ここが好みの別れるところだと思います。
posted by 山崎 真司 at 07:22| Comment(9) | TrackBack(0) | 小説

2011年08月12日

創造者

創造者 (岩波文庫)
創造者 (岩波文庫)
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J.L. ボルヘス
岩波書店
売り上げランキング: 23588



これは小説なのか、詩なのか。いかにもボルヘス的な本です。文字通りに古今東西の幻想的な話もしくは詩が語られています。

ただし、詩といっても、典型的な詩というほど詩的でなく、むしろ小説です。ただし、ボルヘスの有名な言葉「数分で語り尽くせる着想を五百ページに渡って展開するのは労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である」という精神に基づいたもので、刈りこまれたイメージから全体をイメージしていくという読書体験をするものです。


読んでいても、これはいったい何を想いながら、何を読んでいるんだろう?とふと考えこんでしまうようなものです。そして、これに刺激を受けて自分でも文章を書きたくなってしまうのですが、特に書くことも思いつかないし、そもそも自分に語るべきことなどあるのか、とまた考えさせられてしまうような一冊です。あれ?何もこの本について語ってないなぁ...
posted by 山崎 真司 at 20:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2008年09月16日

介子推

宮城谷昌光著
講談社文庫 714円(税別)
初版: 1998年5月(単行本は1995年6月)

 
晋の王、重耳の家臣だった介子推(介推)のお話です。宮城谷氏の小説は、どこまでが史実でどこまでが小説なのか分かりませんが。そもそも2600年以上も前の人の話なので、史実といっても創作が多く、史実と小説の分離自体がナンセンスなのかもしれません。
 
その友人石承と何人かのライバルを交えながら、素朴で誠実な介子推の人となりを描いています。暗殺と裏切りという影が常にチラついているのですが、それを策や知でなく、あくまでも誠と義で対抗していきます。
 
このあたりの筋まわしや、登場人物の清々しさが、まさに宮城谷氏といった感じでした。
 
posted by 山崎 真司 at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2008年09月05日

ブギーポップは笑わない

上遠野浩平著
電撃文庫
初版: 1998年2月 
 
知人に勧められて読んでみました。読む前は口ぶりからメタフィクションっぽいものを想像いていたのですが。実際には、そうではないです。
ジャンルとしては、”少し不思議”系のSFでしょうか。ライトSF?
 
 

以下ネタバレっぽくなるかもしれません。
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ポイントは各章ごとに視点が移動することでしょうか。1つの事件を複数の視点から捉えていって、エンディン

グに向かっています。
 
スクリューの羽根をイメージしてもらって、それぞれ外から中にねじれながら(そして他の羽根とからまりながら)進んでいく。
 ただし、どの羽根も中心まではいかない、といった感じです。1章ごとのが、この羽根になっていてストーリーが進み、最後の1枚の羽根になるとスクリュー(=ストーリー)の全体を現すといった構造でしょうか。
 


ちなみに、この本を薦めてくれた人は、本を”ビジュアル的にイメージして読んでいく”タイプの人ということでしたが、私は全くそういうタイプではありません(うすうす気づいてましたが)。

この辺りが”文系読み”と”理系読み”との違いかもしれない、と読んだ後にふと思いました。
 
私もそうなのですが、私の知人(最も仲の良い人の一人)で多読家の人(大学の先輩?向こうが中学時代から知ってますが)も、読んだ後の小説の筋とかを相当忘れてる派なのです。
 
二人とも、ビジュアルイメージをきっちり持ちながら読むか、抽象的なもの(それはそういうもの)として読むかの違いなのかもしれないなー、と少し思いました。
 
posted by 山崎 真司 at 20:57| Comment(7) | TrackBack(0) | 小説

2008年09月01日

伝奇集

ホルヘ・ルイス・ボルヘス著
岩波文庫
初版: 1993年11月(原著は1941年の八岐の園と、1944年の工匠集の2編の短編集)


ボルヘスの2つの短編集をあわせたもので、メタフィクションではないのですが概念的な小説です。短編はそれぞれあるのですが、主に以下のものがモチーフになっています。

・連環(無限の概念)
・1元論と2元論
・不在

連環というのはその名の通りで、終わったように思えても元に戻ったり、そもそも無限がモチーフとなっているものです。
例えば、ある話においては最初は明確に”仕組み”がストーリー中に語られているのですが、進んでいくうちのその”仕組み”が消えてなくなっており、最後には、リアルな世界にある”仕組み”が存在するかもしれないといったことを示唆します。

また、「バベルの図書館」という秀逸な短編では、同じ本は一冊しか同じ本がないという無限の図書館(*公理*として無限を越えて存在している)について述べています。


1元論と2元論は、明確に”グノーシス派”と”新プラトン主義”という言葉があちこちにちりばめられています。様々なところで、「(全く違うものに思えるが)実はAはBなのだ」といったレトリックが多用されています。

実際に、ここでいう2元論は(デカルトでなく)わざわざ”グノーシス派”と明記されているのですが、小説の上での2元論は、小説上の”筋”(現実世界での肉体に対応)と”概念や作者の意図”(現実世界での精神に対応)といった2元論として読みました。
ただ、実際に読者からみた場合は、これらは単に”筋”という1元論として読み解くこともできるのですが。


不在については、ボルヘスの代表的なモチーフだと思います。世の中には「犬が鳴かなかった」ことが奇妙であるという事件もあるそうですが、ボルヘスも敢えて”不在”になっていることがあります。


上記のようなモチーフを元に、形而上学っぽいSF小説といったところでしょうか。解釈に悩む話もありましたが、大変楽しく読むことが出来ました。

posted by 山崎 真司 at 08:18| Comment(2) | TrackBack(0) | 小説

2008年06月11日

白昼の死角

高木 彬光著
光文社文庫 1143円(税別)
初版: 2005年8月(元々は1960年)

 
いわゆる悪漢小説(ピカレスク小説)というジャンルの本でしょうか?実は、ピカレスク小説といったジャンルは小学校〜中学校の頃に読んだ”クラッシャー・ジョウ”シリーズと”クレイジー・リー”シリーズといった今は無き朝日ソノラマ文庫でしか読んだ記憶がありません...
悪漢小説といってもこの小説は海賊や怪盗の話でなく、詐欺師の話です。実話がベースになったもので、舞台は戦後直後の日本です。


詐欺師といっても、詐欺的行為も含めてともかくお金を稼ごうという男の話で、通常の企業がある枠(ルール)の中で行っていることを、ルール無用でお金儲けに走ったある企業の話と読むことができます。

実際に読むと、悪漢小説といっても、相手の心理を丁寧に読みながら、また法律の網の目の範囲から上手く抜け出さないように(実際には抜け出しているのですが、上手くつかまらないようにギリギリのラインで)慎重に詐欺を働くのは読んでいて爽快で(いいのか?)800ページ以上ある小説なのですが、あっという間に読んでしまいました。
 
posted by 山崎 真司 at 19:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2008年05月06日

ミューズ

赤坂真理著
講談社文庫 467円(税別)
初版: 2005年6月(文庫版 単行本は2000年3月)

この本は、男性としてどのように読めばいいのでしょうか?
現代の女性が抱える悩み。上の世代では男女差別といった社会と戦っていたものが、戦うべき対象がなくなってきている。逆に、現代の若い世代では過剰消費と戦っている(実際には勝ち目がないので、戦いでなく蝕まれている)のでしょうか?


主人公はモデルをしている高校生で、かなり年の離れた矯正歯科医に性的にも惹かれています。歯の矯正は雑誌などで見る「**がカワイイ」という自らの肉体も買うという消費者という立場、一方で(割がいいので)モデルやテレクラでバイトするという性の被消費者という立場、の間で揺れていると考えられます。

読みながら、消費者として何が欲しいのかという問いと共に、同じだけ(女性性という性的な意味での)被消費者に向けられる眼差しということを考えてしまいました。


この本の中では、過剰なまでの母親の影響と、同じようにまったく希薄な父親の影響、そして年上の歯科医の憧れということで、父性への憧れが描かれています。ここでの父性とは、”与える者”としての母性に対して、”制限をする者”ではないか、と考えています。例えば消費を与えるのでなくて、義務を与えるといった機能です。

現代の一緒に遊んでくれる”話の分かる、やさしい”お父さんは父性として機能していないのではないか、ということを考えてしまいました。


同じ赤坂真理の”モテたい理由”の書評はこちら

posted by 山崎 真司 at 08:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2008年03月22日

かもめのジョナサン

リチャード・バック著
新潮文庫 476円
初版: 1977年5月

内容:
アメリカで1970年出版され、1972年にベストセラーになった「かもめのジョナサン」です。名前は有名で知っていたのですが、意外と最近の小説でした。

内容はカメモのジョナサン・リビングストンが、飛ぶことの歓びを求めて、他のカモメの群れから離れ、そしてまた群れに戻るという話です。


感想:
よくビジネス書で参照されているので読んでみました。読む前は、いわゆる「最初のペンギン」の物語か、「新しいチーズを探すネズミ」といった種類の物語と思っていたのですが...若干違いました。ビジネス書的な本というよりも、もう少し哲学的な感じの本でした。

イメージとして、速度の限界に挑戦する、夢を追う、人を導く、夢を託す、といった本でしょうか?
あまりうまい感想は書けませんが、さくっと読めて、なんとなく不思議な読後感がある本でした。ただ、騒ぐほどの本かどうかは微妙ですが...
 
 
蛇足ですが、”かもめのジョナサン”と聞くと、”スタートレック エンタープライズ”の”ジョナサン・アーチャー”と、トラック野郎シリーズでキンキン演じる寡の”ジョナサン”しか頭に浮かびません...
posted by 山崎 真司 at 21:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2008年02月03日

石田三成

童門 冬二著
学陽書房 840円(税別)
初版: 2007年12月

内容:
私が歴史小説家として最も好きな童門 冬二の本です。この本は元々は別の出版社から1996年に単行本で出版されていたものです。内容はいわゆる歴史小説なのですが、よくある歴史小説のような「石田三成 全人生」といった本という感じでなく、いくつかのポイントを取り上げて、石田三成とはどういう人だったのか、というのを童門氏の解釈から書いてます。


感想:
石田三成といえば、一般的にはそれほど人気がないけど、武将ファンや戦国マニアはかなりの人気を誇る武将...でしょうか?某ホームページの人気ランキングで、大谷吉継が一位で二位が石田三成だったのを見て笑ってしまったことがあります:-)

この小説では有名な挿話もほとんど軽くスルーか、それ自体語られておらず、全体の流れもポイントのみピックアップして語られています。(例えば関が原の合戦についてほとんど何も書いてない)
小説としては...この歴史小説らしくないスタイル(有名なイベントをベースに話を組み立てていない)ことへの違和感ばかり感じてしまいました。これは、歴史小説なのか、エッセイ集なのか...
 
posted by 山崎 真司 at 09:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説