2009年06月01日

誘惑される意志

ジョージ・エインズリー著
NTT出版 2800円(税別)
初版: 2006年9月

 

デネットの”自由は進化する”の中で解説されていた本です。
一見すると、経済学的観点を持ち込んだ心理学の本ですが、


この本では”双曲割引”という概念を使うことで、人間の行動(意思の弱さ)を説明しています。


なぜ、「明日の朝早く起きたらやろう」という勉強は行われないのか、
なぜ、グズグズしてしまうのか、
こういった問題をモデルを使って説明しています。


この本では人間の意思決定というのが異時点間の交渉であり、
その報酬性が双曲的に割り引かれるというモデルを提示しています。


一般的な経済学では(そして直感的には)未来の報酬性の割引は指数割引(DCF)といったモデル化をしますが、
実際の人間はこのような理想的な割引は行っておらず、
双曲線としてモデル化すると非常に現実の感覚に整合するのではないかという提案をこの本ではして、
このモデルを下に、さまざまな状況での意思決定について考察をしています。


この双曲割引による異時点交渉モデルというのは、非常にシンプルで分かりやすいモデルなのですが、
実際に例を読んだり、自分の経験に照らし合わせると非常に高い整合性を持っている印象があります。


P.S.翻訳が山形浩生氏なので、解説がいつもの山形節でした...

posted by 山崎 真司 at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2009年04月08日

服従の心理

スタンレー・ミルグラム著(山形浩生訳)
河出書房新社 3200円(税別)
初版: 2008年11月(原著は1974年初版)

この本はアイヒマン実験としても知られるミルグラムの服従実験(ここに解説があります)についての本で、
一冊まるごと1つの実験についての説明と分析になっています。
ちなみにミルグラムは有名なスモールワールド現象(6人の隔たりがあればあらゆる人につながるという現象)の実験も行った心理学者です。


さて、この本では人間の道徳が権威に対してどのように働くのかということを実験した上で検証と考察をしています。

序章に、

権威の下で行動している人は、良心の基準に違反した行動を実行するが、その人が道徳感覚を喪失すると言っては誤りになる。
むしろ、道徳感覚の焦点がまるっきりちがってくると言うべきだ。

という言葉がありますが、まさにこのように権威の下では、道徳観念と一般に言われたものが麻痺します。
(実際には道徳観念が麻痺するというよりも、自責の念にかられながらも行動を止められなかったりもしますが)


また、この本では実験の結果を数値としてのみでなく、生々しくそしてかなり主観的に書かれているのが印象的です。


この本で一番印象的なのはミルグラムの実験の周到さでしょうか。
単なる服従実験の実験だけでもよく練られたものなのですが、実際には本当にさまざまなバリエーションで念入りに実験が行われています。
1つの実験を微妙に違った角度から何度も行い、より正しい姿を浮かびだしているのは本当に”素晴らしい実験者”だったんだと思いました。


ミルグラムはこの服従実験を通しては、権威の言いなりでなく、自分の道徳に従う意思を持つことを語りかけていると思います。
実際には、この”権威”を、”言い訳”や”惰性”と捉えると、普段自分たちが行っていることとまったく同じことを実験しただけかもしれない、と思いつつ。
一方で、権威というのは何気なく(≒自分達が気づかない間に)影響を与えているという怖さも感じました。

posted by 山崎 真司 at 23:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2009年03月26日

教育×破壊的イノベーション

クレイトン・クリステンセン、マイケル・ホーン、カーティス・ジョンソン著
翔泳社 2200円(税込)
初版: 2008年11月

 

イノベーション関係の著作で知られるクレイトン・クリステンセンの新作です。
こちらのホームページを見て、思わず買ってしまいました。

この本はアメリカの教育界に関する提言と今後の予測をしている本なのですが、ビジネス書的な話を加えながら書かれており教育界についてよく知らなくともそのまま読める本でした。
また、ザ・チョイスを読んだ時も思ったのですが、ある種のフレームワークの適用というものは、ビジネスだろうが他のジャンルにだろうが適用できるということでしょうか。

この本では破壊的イノベーションというものを軸に教育を読み解いています。
破壊的イノベーションというのは、内部でなく外部から起こるもので(内部者は基本的に、システムを破壊するメリットがないですので)、無消費層(≒ないよりマシという視点で、これまで使ってなかったものを消費する層)をターゲットにしたところから起こります。
たとえば、出た当時のパソコン(当時はマイコンと呼んでましたが)はミニコンと比べると性能ははるかに劣りますが、価格も十分に安く、それがやがてミニコンの市場を破壊しました。

このような破壊的イノベーションが、現在教育の場で起ころうとしていることを読み解いています。
これは教育費への予算不足と、一方でIT技術の進化に教師がついていっていないことやITが生徒ごとの教育を支援できることがこのような破壊的イノベーションを起こしえます。
たとえばビデオ授業があれば、いわゆるロングテールっぽくニッチな授業を受講することができます。
中学教師の授業より、大学の先生が話すのを聞くほうが有効な場面は多いとは思いますし。
テストという評価軸を考慮しなければ学校で習うこと(暗記すること?)が、社会に出てからどう活かすかということを考えると、教育というのは改善する余地がたしかに多いと思います。

ただし、このようなイノベーションも、”勉強ができる”ことで官僚になった人や、その官僚が選んだ人間がある意味内部からイノベーションを起こせるかというと起こせないといった構造になっています。


実際にクリステンセンの読みでは、このようなIT技術の進化による破壊的イノベーションは起こる予兆がすでにあり、アメリカでは2012年くらいからオンライン授業というのが普及しはじめると書いています。この波は、同様に日本でも起こるはずです。

 

他の方の書評を読んで:
http://ameblo.jp/lifeislovely/entry-10170966868.html

ある意味これは、破壊的イノベーションを学ぶための、イノベーションへの解とは別の、優れた方法の一つにもなっている。
最も印象に残ったのは、「多くの教育研究(そして経営研究)を、相関関係を見出すにとどまっていて、因果関係を分析できていない(だから使えない!)」という一節。
おお。言い切ってるwww

相関関係と因果関係についての分析・分離というのは、社会学者の大きなテーマでしょうか。
クリステンセンは、教育界への疑問を相関関係と因果関係の誤読というところからスタートさせて、イノベーションというツールを使ってソリューションを読み解いており、このストーリーはなかなか刺激的でした。


http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2008/11/post-d205.html

クリステンセンと言えば、ご存知の通りイノベーション研究の第一人者。著書『イノベーションのジレンマ』を繰り返し読まれた方も多いでしょう。
その彼が教育問題に関する本を書いた、しかも「破壊的イノベーション」の考え方を使って、と聞けばビックリされるのではないでしょうか。
僕も最初は「イノベーションの理論で教育問題を考えられるのか?」と懐疑的だったのですが、結論から言うと、本書は「破壊的イノベーション理論」の非常に優れた応用例になっていると思います。

私も小林さんと同様で、(教育の)素人がおいおい、とか少し思ってたのですが、ここまでスッポリはまるとは。
そして、これを読むと、まったく同様のことが日本でも起こる気がします...


http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/0b00378584ad5aa62bf68457cbb5bfb5

生徒中心の教室で学習を個別化するにはコンピューターを活用するしかない!という80年代初頭のCAIのうたい文句をベースに、「ユーザー生成コンテンツの制作を支援するプラットフォームの出現」というコンシュマー・ジェネレイテッド・メディアなスパイスを効かせ、「オンラインコースが高校の全履修課程の25%のシェアを獲得するのは2014年頃」という大胆な予想までしています。

そういえば、以前(ぼくは小〜中学生でしたが)CAIというキーワードがもてはやされていて、コンピュータでみんな学習するようになる、なんてことを夢見てた時代がありました。
これも、AV機器とコンピュータの統合化などのインフラとしてのコンピュータの性能のアップが背景にあって、今ならばクリステンセンがいうような世界がきても不思議ではないと思ってしまいます...
もしかして、私が夢をみがちなコンピュータ屋だからかもしれませんが...

 



 

posted by 山崎 真司 at 23:36| Comment(3) | TrackBack(0) | 社会一般

2009年02月12日

利己的な遺伝子

リチャード・ドーキンス著
紀伊国屋書店 2940円(税込)
初版: 2006年5月


非常に有名な本で原著は1976年です。かなり多くの人から勧められ、また、いまだに大きな書店で平積みになっているこの本は、それだけの内容の本と思いました。私が読んだ版は30周年記念ということで、前書きだけでもかなりの分量がありますが、この利己的な遺伝子はドーキンスの文章力のためか分厚いにも関わらずスラスラ読める良書でした。


利己的な遺伝子というと、タイトルから個人は遺伝子によって動かされているといった内容の本かという印象がありましたが、まったくそういう本ではありません。

ここから読んだポイントとしては
・自由意志(遺伝子によって動かされているか?)という件については、ドーキンスは人間の意志の力を信じている。
・遺伝子の複製力と自然淘汰という見方で生き残っている説明ができるが、これは遺伝子が人間の目的を決めるわけでなく、”単に生き残った”条件が説明できる。
・遺伝子という自己複製子という視点を持つことで、各生物の個体ごとの進化が説明できるが、1個体内での各細胞の協調についても同様に説明が出来る。
・胚発生ということにより、より自然淘汰の可能性が増えるシステムが作れる。

といったことを様々な遺伝子という視点と、様々な動物の特性から読み解いて解説しています。
宇宙の最初(ビッグバン?インフレーション?)というのも気になりますが、この本を読むと生物の発生の最初(スープ?)というのもとても気になります。
この本は今の地球上の生物というシステムがどのようなものなのかを説明していますが、これだけのシステムが自然淘汰というものだけで作られたというのはすごいことだと思います。
また、最近読んでいるかなり多くの本(分野は様々)で進化論について述べられています、やはり進化論というものは現代科学についてはかなり深く根を下ろしているということでしょうか。その点でもオススメです。
 
posted by 山崎 真司 at 21:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2008年12月15日

生と死の極限心理

広瀬弘忠著
講談社 1500円(税別)
初版: 2006年11月

 
サブタイトルが「サバイバルの限界を考察する」となっています。何故、リスクを好む人びとの説明を軽くしてから。
 
アムンゼン、スコット、シャクルトンといった南極探検家の比較、そしてアメリカのダナー隊の説明が行われています。いずれも、まさに生と死の極限状態にあった、もしくはスコット隊のように全滅した人達の話です。内容については、広瀬氏の研究内容は分かりませんが、二次創作的な著作という印象を感じました。
ちなみにダナー隊というのは1846年にカリフォルニアへ向かった途中で遭難し、多くが死に、また一部の人達は人肉を食べて生き延びたという話で、アメリカではかなりメジャーな話だそうです。
タイトルでは、極限の考察となっていますが、実際には様々なサバイバルでの事象を解説しているだけで、そこでの考察やサバイバルでの対応といった所にはあまり踏み込まれていない印象でした。
普段はローリスクローリターンな行動が、極限状態ではハイリスクノーリターンになってしまうため、果敢にリスクを取る(ハイリスクローリターン行動を行う)ことが理性的になることがあるのが極限状態でのポイントでしょうか。また、こういう状態で理性的に振舞えること(スピード重視や体力を残しておくこと)ができればより生き残ることが出来そうです。


他人の書評を読んで:
http://hoptimisti.exblog.jp/5301383


やっぱり何事も楽観的に行かなきゃいかんね。


ですよねー。ちなみにシャクルトン的には、勇気は5番目の要素だそうです。

posted by 山崎 真司 at 20:10| Comment(1) | TrackBack(0) | 社会一般

2008年12月05日

耐震サラリーマン

佐藤 訓行著
中日新聞社 1143円(税別)
初版: 2005年1月

 
阪神淡路大震災の際の綜合警備保障の神戸支社長が書いたもので、副題が「震災復興の心得」とあります。実際には心得やマニュアルというよりも、大震災の頃を振り返った主観的な記録の本です。
地震の場合は、被害が局地的なので2,3日生き残ればあとはなんとかなると言われてると思いますが、実際に生き残れたとしてその後どうなるのか、実際にどうするかというのは想像もしてませんでした。
まずは著者ですが震災初日から、会社に行ってました...そういうものなんですね。普通は行く的なことを書いていましたが、たしかに家にいたところで何もすることがないので、何か会社に行くということになるのでしょう。


必要なものとしては食糧はなんとか買えるので、そのお金が必要ということ(うちの会社小口現金ないけど大丈夫かなー)。また、飲料水については1日2リットルくらいでいいけど(ただしこれは冬の前提でしょう)、トイレの水が節約しても1回7リットル程度必要(水で流さないとトイレが詰まるので)で、1日15〜20リットルくらい必要ということ。つまり、飲食については飲料水よりもトイレの水の確保が大事になります。このためには、自転車やスクーターとポリタンクが必要になります(名古屋の場合は海が近いし...あとおそらく小牧基地や守山基地も水配布の場所になりそう)。

また買えるものがあったら買えるときに買うが基本となります。値段の多少や(買えないよりマシ)決裁なんかはぶっとばして買っておくということになります。会社ではこういうのをごちゃごちゃ言う人がいそうですが、非常時には現場判断できるようにしておく必要がありそうです。
また、ガムテープは使えそうなので、いくつかまとめ買う必要がありそうです。

というわけでこの本を読んだ上で防災グッズとしては
・現金(ATMは使えない前提で)
・ポリタンク
・自転車の鍵(自転車は盗まれやすいので二重、三重ロックにする)
・笛(カバンに懐中電灯は常に入ってますが、笛も入れとこう)
・ガムテープx何個か

といったところかなー、と思いました。


他人の書評を読んで:
残念ながら見つかりませんでした...

posted by 山崎 真司 at 07:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2008年12月02日

21世紀の歴史

ジャック・アタリ著
作品社 2400円(税別)
初版: 2008年8月(原著は2006年)

技術および社会の動きから、21世紀の歴史を予想した本です。これがアタリ氏の想像する未来の歴史の可能性の中心なのか、それとも一つの歴史なのかは分かりませんが。
まずこれまでの歴史を中心都市を軸に俯瞰し、その後、未来を予測しています。
ポイントとしては、ノマド(遊牧民)の重要性と、クリエーター層の重要性でしょうか。このクリエーター層については、他の本でも書かれていることですが...
未来の歴史としては、超帝国の発生、超紛争の発生、超民主主義の発生という流れが述べられています。これが未来の可能性の中心とは思いませんが、1つの未来としては十分にありうる未来です。


未来の予測というのは実際の予測はともかくとして、未来を予測してそれに対して対応を考慮するというのは大事なことかと思います。実際に個人レベルで何が出来るのか、ということはありますが、それでも未来を考えることは大事だと思います。

この本の未来の歴史は少し極端ですが...ただし、ナノテクノロジーやクローン技術などの科学から21世紀に行われることの予測は興味深かったです。クラークの法則を思い出しました。


他人の書評を読んで:

http://urag.exblog.jp/7567538/
日本ではこんにち、「個人主義ではだめなのではないか」という議論が高まりつつあるくらいに「個人主義が蔓延している」かのように受け止められているのに、アタリにとってはそれでも日本には個人主義や自由が足りないように見えるらしい。『事典』において「個人主義」は「西洋文明、誌上、そして民主主義の基本原理」(171頁)と説明されています。日本の個人主義は中途半端であり、日本の民主主義は未熟である、とアタリは見ているのでしょう。


個人主義というのが何かによりますが、現代型の個人主義は非常に進んできつつあると思います。また、個人主義がダメというのはコンセンサスがあったとしても、新しいスキームはまだ見つかっていない以上、あまり意味がないでしょう。一方、民主主義は官僚主義の強さのせいか、たしかに未熟ですね。歴史的もしくは思想的なアジアの政治形態の弱点でしょうか。人口が多いために、官僚機構が大きくなってしまうということが背景にあるのでしょうか?


http://www.toyokeizai.net/life/review/detail/AC/8cb393f2c028f135e2a7c4059675deea/

 歴史の法則を見出すのが前半だとすると、後半は、それらを基にした未来の予測であり、独特の概念が次々と登場する。先端的な専門能力を持ち、国境を超えて活動するクリエーター階級とも呼ばれる「超ノマド」という人々、そのノマドたちが愛好するノマド・オブジェの氾濫、さらには、個人のプライバシーが消滅するような超監視体制や自己監視体制の登場。G・オーウェルの『1984年』の21世紀版というところだろうか。そして、こうして国家の機能が市場のメカニズムに代替された後には、超帝国が登場し、さらにはそれが破裂して超紛争が生じるというシナリオである。この超紛争に代わって、超民主主義という新たな仕組みと哲学で、グローバルな世界が統治されるようにならないといけない、と結ばれている

そうそう読みながら、1984年のことが頭によぎりました(1984年は20年来のツンドクですが)、超民主主義が適切なことかどうかは分かりませんし21世紀の歴史について我々がどれだけのことをコミットしなければいけないかは分かりませんが、国境の意味の低下と各国が優秀な人材を多く受け入れようとする(マーケット化?)するというのはありそうな歴史です。実際にこの兆しはすでにいくつかの国の制度に見られますし。
posted by 山崎 真司 at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2008年11月20日

自閉症者が語る人間関係と性

グニラ・ガーランド著
東京書籍 1800円(税別)
初版: 2007年7月(原著は2004年)


タイトルの通り、自閉症者の友情や家族関係、セクシャリティについての本です。

これまで自閉症者と会ったことはないので、なんとなく読んで見たという本ですが。
そもそも、自分はたまたま偶然に何かが出来ているだけで、ちょっとしたバランスでいろんなことができなくなったり、認識できなくなる危険性をはらんでいるとおもっています。例えば人前で自慰をすることが社会的によくないということを認識していない人も世の中にはいますが、そういう人と自分は紙一重の差ではないでしょうか。このような危うさを感じながらこの本を読みました。


一方、自閉症者というのがどのような人達かは分かりませんが、そういう人達にとって他者と関わったり、またセクシャリティにどう向き合うか、という問題を、自分にとってもリアルな、そして実はオブラートにつつまれていない分ピュアな形で提示された気がします。具体的には、他人とどう向き合うか、セクシャリティとは何か、という問題を正面から考えることができました。

またそれを考えることで、自閉症者と違う社会的な暗黙の縛り(性による振る舞いの暗黙の期待?)を強く感じることになりました。


 

posted by 山崎 真司 at 21:36| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会一般

愚者の道

中村うさぎ著
角川文庫 438円(税別)
初版: 2008年2月(単行本は2005年12月)


買い物の女王として知られる(元?)ライトノベル作家でエッセイストの中村うさぎのエッセイです。買い物依存症→ホストにハマる→美容整形→デリヘル体験といった経験をして、またゲイの旦那と結婚といった経験をしているらしいですが、それらを笑い飛ばすというよりも、その裏にある苦しさというのを書き綴ったものです。


ナルシシズムというのは、決して満たされることのない穴のあいたバケツに水を注ぐこと。そして水を注いでも満たされないのはバケツに穴があるせいでなく、自分に欠落があるのだと考え、さらに狂おしく水を注ぐ、ということだそうです。

このナルシシズム論というのは同意はできませんが、なかなか興味深かったです。


また、他者からの”赦し”という視点で、いわゆる承認欲求を捉えています。普通の人は、ここまで度を越した”赦し”への渇望はないでしょうが、女性故の苦しさでしょうか。


書いている多くのことに同意ができず、谷底に落ちてしまった感満載の独白の本でしたが、背景にある想いについては共感できることも多く自分も(そしておそらくほとんどの人が)崖っぷちにいるんだなぁ、と感じる本でした。

 
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2008年10月22日

消費伝染病「アフルエンザ」 なぜそんなに「物」を買うのか

ジョン・デ・グラーフ他著
日本教文社 1905円(税別)
初版: 2004年11月

いわゆるアメリカの大量消費社会に対する警鐘の本です。読んでいると、ブランドなんか、いらないを若干思い出します。
要は「持続可能な生活ではない、過剰消費はダメでしょ?考え直しませんか」という一言で言うことができます。
モノを買う→モノが多い→広い家→労働が増える
といった”生活レベルを維持する”労働と、その背景にある大量消費(実際には消費じゃなくて購入ですが)は、果たして幸せになったのか、といった問いかけをしています。
いわゆる、「買い物が楽しい」、「ムダにショッピングモールに行く」といった私のような生活スタイルを改めて、「持つこと」でなく「知ること」や「信じること」に価値を置き、より持続可能な生活を目指す必要があります。
この「持つこと」の背景には刺激的生活を求めるということでしょうか。実際には刺激的生活でなく、社会に対して何かを行うことを重視しましょう、といったことがポイントでしょうか。


なんというか、とても私向き(病気なので)な本でした。


ちょっとしたリンク:

http://www.kyobunsha.co.jp/shopping/books/ISBN4-531-08141-2.html
こんな本です。メーカーさんのサイトですね。


他人の感想を読んで:

http://blog.livedoor.jp/takohan_takumi/archives/50877392.html
注意。この本は自分自身の消費行動にある程度の哲学を持っている人でないと理解できない内容になっています。一ヶ月に収入の10%以上の使途不明金がある方は、消費行動を考え直した上で読むことをおススメします。

哲学は要らないと思いますが(むしろ消費哲学持ってていいの?)、消費行動は考え直します。実際にはその表層でなく、「持つこと」から「知ること」や「信じること」へのシフトや、「買う行動」から「社会への行動」へのシフトが必要であると読みました。


http://kaichou0.blog8.fc2.com/blog-entry-29.html

人はどうして物をどんどん買ってしまうのかとか、アメリカのショッピング事情とか、それを放送した特集番組の内容などが書いてありました。自分にも当てはまる例などがあったりしてびっくりしたし。まさかアメリカはこれほどすごいのかと思いました。日本よりはすごいとは思ってたけれど。まだ、されっとしか読んでないですけど、これはぜひ読むべきだと思います。
すごく素直な感想でこの通りな本だと思います。他人事(「アメリカすごいよ!!」)という気持ちと、反省の気持ちと合い半ばしながら読む本といったところでしょうか。
posted by 山崎 真司 at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般