2011年07月10日

数量化革命

数量化革命
数量化革命
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アルフレッド・W・クロスビー
紀伊国屋書店
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ヨーロッパの分岐点が1300年前後に起こったとする歴史の本です。時間・空間の数量化(定量化)が人の認識を変えていったとしています。これは、数学(アラビア数字の採用など)や時計の発明、遠近法といった絵画技法、音楽での楽譜の発明、正確な地図などといったものとして表れます。

私たちはケプラーが惑星の軌道の法則を解き明かし、ガリレオが木星の衛星を発見し、デカルトが”我思う故に我あり”といった時代(1700年前後)を転換点とみなすことも多いと思いますが、実際には定性的なものの見方を定量的に見ることができる基盤が整ったという意味で1300年前後という主張は説得力があります。


ちょうどこの時代は十字軍が始まった時代のあとであり、イスラム文化が西洋に入ってきてしばらくしてからという時代で、アヴェロエスが12世紀の人なので、ヨーロッパにアリストテレスなどのギリシア哲学の再発見が行われてそれが広まった時期にあたります。

ギリシア哲学のアリストテレスの経験主義的な部分やプトレマイオスの地理学の再発見が、それまでの思念的な思想の停滞期から脱却したポイントでしょうか?


私たちは、5秒といえばどのくらいか当たり前のこととして思っていて、他の町にいっても世界のどこにいるのか正確に把握しています。また、音楽についても再現性のあるツールを使って、メロディーを理解して覚えることが出来ますし、楽譜を使って過去の音楽を再現することもできます。これらの全てが数量化革命あとのものであり、その前の時代は想像できません。

その前の次代の人達の物の見方は、私たちよりもベンジャミン・ウォーフが”言語・思考・現実”で書いていたホピ族に近かったんでしょうか..


言語・思考・現実 (講談社学術文庫)
L・ベンジャミン・ウォーフ
講談社
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posted by 山崎 真司 at 07:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2011年01月31日

今この世界を生きているあなたのためのサイエンス2

リチャード・ムラー著
楽工社 1429円(税別)
初版: 2010年9月(原著は2008年)

今この世界を生きているあなたのためのサイエンス〈2〉
リチャード・A. ムラー
楽工社
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今この世界を生きているあなたのためのサイエンス〈1〉
リチャード・A. ムラー
楽工社
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原題は”Physics for future presidents"(未来の大統領のための物理学)です。

日本では2冊になっていますが、こちらの2巻は”宇宙空間の利用”と”地球温暖化”という3つのテーマが語られます。

ちなみに1巻はこちら

宇宙空間の利用では、衛星の基礎知識(低軌道、中高度軌道、静止軌道)の違いやGPSとして使えること。

また、この著者の主張として、宇宙開発は有人でなく無人でやるべきとする意見が書かれています。たしかに有人よりも無人の方が、必要となるコストも下げられるし科学的発見を目的とするならば良い部分が多いと思います。日本でも有人か無人かといった議論がありますが、予算の都合で無人しかできないという面があると思います。また、ムラーはこの本のあなかでこれまでのシャトルのミッションの中で100回のうち2回しか事故が起こらなかったのはすごい功績と書いていますが、逆に言えばそれだけのリスクのあることであり、まだ有人の時期ではないのかもしれません。

地球温暖化としては、よく言われているアル・ゴアに代表されるような「過剰反応」とその対極にある「問題なし」という双方でない中道について述べていますが。どちらかといえば、アル・ゴアに代表されるような、トリックを暴くといった記載が多く見られます。

今後の技術としては著者は、ソーラー自動車(単位面積あたりのエネルギーが小さすぎる)やを使用したバイオエタノールトウモロコシ(肥料を考慮するとエネルギー効率が悪い)は普及しないであろうことを述べています。また、ハイブリッドや電気自動車はバッテリの生産コストなども含めたトータルコストで考慮しないといけないが、現時点では効率が悪い旨を記載しています。それよりも、全自動車の軽量化をすすめることがより効率的との提言がされています。この場合、生産コストも燃費も向上するのでかなり有効な手法と考えられます。ただし、他の自動車とぶつかった時に、重くて固い自動車の方がダメージが小さいのでみんなが軽い自動車にしないといけないというゲーム理論的ジレンマと、軽い=安全じゃないという市民団体の圧力が想像されます。

また、原子力発電としてはペブルベッド原子炉が有望としています。また、二酸化炭素回収・貯蔵技術についても述べています。これさえあれば、豊富にある石炭からエネルギーを得ることもできます。


私の環境問題については主に以下の本が主なネタ本でしたが、こちらの本は物理屋さんが書いただけあって、現状分析というよりも、未来の技術の記載が興味深かったです。

ブログはこちら

環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態
ビョルン・ロンボルグ
文藝春秋
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posted by 山崎 真司 at 10:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2011年01月19日

今この世界を生きているあなたのためのサイエンス1

リチャード・ムラー著
楽工社 1429円(税別)
初版: 2010年9月(原著は2008年)






原題は”Physics for future presidents"(未来の大統領のための物理学)です。

日本では2冊になっていますが、この1巻は”テロリズム”、”エネルギー問題”、”原子力”という3つのテーマが語られます。

例えばテロの説明では、9.11のワールドトレードセンターの破壊は、飛行機の衝撃によるものではなく、その後のジェット燃料による火災によるものであることや、核兵器やバイオテロについて書かれています。核兵器は扱いが難しいため、ドラマであるような核兵器自体で人を殺すよりも、テロによりパニックにさせるといったことしか出来ないでしょうか?(そして後者の方が不安を煽るので効果が高い)

エネルギー問題では、石炭から石油を作るフィッシャー・トロプシュ法の紹介や太陽光発電などについて述べています。


そして原子力では、原子力爆弾(ウラン型、プルトニウム型)と水爆の仕組みと原子力発電の仕組みを紹介しています。これによって、なんとなくのイメージで捉えていた原子力発電について、どのようなものであるのか分かりました。また、チェルノブイリとスリーマイルの事故についても、実際にどのような事故であったのかが述べられています。

実際に読んでいくと、原子力発電については誤解しているところが多かったです。また、同様に弾頭として使用する劣化ウラン弾についても名前の響きで弱い戦術核と勘違いしていたことが分かりました。


邦題のように”今この世界を生きている”わたしのための本、というよりも”未来の大統領”のためにまさしく相応しい本だと思います。一方で、世の中にある様々なニュースや原子力発電についての意見などを、”イメージ”でなくより事実に近いところから捉えるためには良い本だと思います。妄念よりCool Headですね。。
posted by 山崎 真司 at 08:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2010年12月29日

環境危機をあおってはいけない

ビョルン・ロンボルグ著
文藝春秋 4500円(税別)
初版: 2003年6月(原著は2001年)

というわけで,2010年の第6位は,これ





「ワーク・モティベーション」です.有名な産業心理学者のゲイリー・レイサムの著書で,これまでの様々な理論を歴史と共に説明しています.以前の感想はこちら.


そして,第5位は,これ






どこかで選ぶ50冊の1位になったとかで,流行りましたね.梅棹忠夫の”文明の生態史観 (中公文庫)”と重なるところもありますが,ジャレド・ダイアモンドはより,詳細な視点から自分の理論を説明しています.以前の感想はこちら.


そして第4位は,これ





内容はタイトルの通りです.環境危機本としては,アル・ゴアの「不都合な真実」という本があります.これはさすがにやりすぎな本ですが.


この本を読む前にクライブ・ボンディングの「緑の世界史〈上〉 (朝日選書)」,「緑の世界史〈下〉 (朝日選書)」を読んで少し暗い気持ちになったのですが,冷静に考えることができました.

この本のポイントは,どこかの大学教授のように「環境問題は存在しない!!」などとデータもないのに(もしくは全て自分調べで)適当なことを言うことでありません.

一方,環境危機問題には,様々な利権があるのでそれぞれが自分の権益に従って声高に環境危機・環境保護を謳っています.また,”専門家”にもそれぞれ自分が注目される・研究費を取得するなどのインセンティブに従って環境危機・環境保護を謳います.


これに対してデータをベースに「どこに環境問題があり,どこには環境問題がない」を語っているのがこの本です.

実際に,環境問題については”あらゆる問題をすぐに解決する”が目標ではなく,問題に対して優先順位をつけ,それぞれのテクノロジーの進化も考慮しながら,”実施する”ことだと思います.

例えば,「化学製品が増えてきたのでガンが増えた」というのは,「他の原因で人が死ににくなったのでガンで死ぬ人が増えた」という事実があるだけの問題で,「化学製品が増えた」のと「ガンが増えた」ことの間には明確な因果関係が示されません.「大気汚染が進んでいる」というのも,先進国では様々な規制が進んでおり,大気汚染は減っていますし.そもそも,産業革命当時のロンドンを考えれば大気汚染が減っていることは明確です.

「生態系に悪影響があるので農薬を使用してはいけない」ということに対しても,それでは「農薬がなければどれだけの農作物が作れるのか?」ということを考えないといけません.結局,農薬を規制することによって,今の世界の人口を賄いきれないならば,一部の裕福な人間のみが”食える”ということになりかねません.一見,善意の各種規制も”農薬による土壌への影響”という直接的な影響のみしか考慮しないと,間違った結果を及ぼします.


これらのことは一例ですが,環境危機として言われていることの多くについて,データを軸にきちんと説明しており,読者は自分で考えることを促されます.約600ページ,2段組の大著ではありますが,論理がしっかりしているので非常に読みやすい一冊です.もちろん,そのまま鵜呑みにする必要はありませんが,一方で”環境保護”派の主張についてもインセンティブを考慮しながら割り引いて,もしくは疑わなければならないことがわかるでしょう.



posted by 山崎 真司 at 09:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2010年02月09日

システムの科学 第3版

ハーバート・サイモン著
パーソナルメディア社 2000円(税別)
初版: 1999年6月(原著3版は1996年、原著初版は1978年)

 

 

 
人工知能畑でも、認知心理学畑でも権威であり、しかもノーベル経済学賞受賞者というハーバート・サイモンの本です。システム屋(⊇コンピュータ屋)としては読むべき本と、ずっと思っていながら読んでいなかった本です。


社会、生物や人工物といったものをシステムとして見るということを述べています。例えば、脳は微視的レベルとしてニューロレベルで見ることもあれば、巨視的レベルで意識として見ることもあります。経済学や物理学においても、同様のレベルがあり、このようなシステムのレベル(階層性)について書かれています。


人間の認知限界から経済学や心理学への影響についてはよくまとまっている印象で、むしろシステムの科学といったものよりもこのような人間についての考察がおもしろかったです。


ただし、読むのに骨が折れる割には、最近ではよくいわれていることが多いので、サイモンの広さを知るという以上の本ではないかと思いました。


あと、個人的には固有名詞のほとんどが英語のまま載っていることと、参考文献の中で邦訳があるものが記載されていないことが残念でした。

posted by 山崎 真司 at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2010年01月26日

銃・病原菌・鉄

ジャレド・ダイモンド著
草思社 1900円(税別) (上下とも)
初版: 2000年10月(原著は1997年)

 

 

 


サブタイトルが”1万3000年にわたる人類史の謎”となっています。

生理学の教授であり、現在は地理学の教授であるダイモンド氏が、ニューギニアで言われた「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」という疑問に対する答えがこの本となります。


人類の歴史は、個別の事項としては偶然として片付けられるが、ある程度必然のものがあり、それを論じているのがこの本となります。

ポイントとしては、食料の生産性が(広い意味で)文化の向上をさせるということです。もちろん文化だけでなく、人口自体も増えます。


この食料の生産性のためには、狩猟採集生活から農耕生活へのシフトが必要となります。また、農耕生活をすることにより、定住を行うことになり、これも文化の向上につながります。また定住生活は同時に出産可能な子供数も増えることなります。


それでは、どのような条件が農耕生活に移行するために必要かというと、気候とそれにふさわしく生産性の高い作物が必要となります。この条件があっていたのが、ユーラシア大陸となります。

また、ユーラシア大陸のみが東西に広いため、他の大陸に比べて、文化の移動がしやすい(近い気候の地域が隣接しているため植物や動物が移動しやすい)ということになります。一方アフリカ大陸やアメリカ大陸では、ある農産物や馬や牛などの家畜は東西に拡がることができても、南北では気候が違うために拡がることができません。また、アフリカでは真ん中にサハラ砂漠があり、南北アメリカは中央が狭くなっており、また山岳地帯になっており、交通しづらいというデメリットがありました。もちろん、ニューギニアやハワイのような離島は、より多くのハンデを抱えていることになります。
歴史において、法則というものはほとんどないと思っていたのですが、この本を読むと歴史においても法則があるということに気付かされます。評判が高いのは知っていましたが、その理由がよく分かりました。
posted by 山崎 真司 at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2009年11月12日

使える!経済学の考え方

小島 寛之著
ちくま新書 740円(税別)
初版: 2009年10月

 

 


経済学はあまり詳しくありませんが、この本は非常に興味深く読めました。著者の小島寛之氏は数学科卒業で経済学博士という経歴の方で、この本は数学を使いながら経済学について説明しています。

ちなみにここでの経済学というのは、多数の人間の幸福を目指すものです。では一体、”多数の人間の幸福”というのは何でしょうか。それをゲーム理論と様々な公理系から説明しています。


高校数学レベルの知識がないと読むのは厳しいですが、数学体系を使うことで主張の裏づけを行っているのが、私にとっては非常に斬新でした。

 
 
この本は経済学の本ですが、ゲーム理論を使うことで心理学を進めた「誘惑される意志」を思い出しました。このゲーム理論は経済学だけでなく、かなり広範な応用があることがはじめて分かりました。
 
社会科学全般に、ゲーム理論ブームが来そうです(もう来てる?)。
posted by 山崎 真司 at 21:56| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会一般

2009年10月29日

数学で犯罪を解決する

キース・デブリン、ゲーリー・ローデン著
ダイアモンド社 1900円(税別)
初版: 2008年4月

 

 
アメリカの人気ドラマ"NUMB3RS"(邦題は"NUMBERS:天才数学者の事件ファイル”)の背景になっている数学の考え方を説明した本です。山形浩生の書いた”訳者解説”を読んでいるうちに読みたくなって買ってきました(←狙い通り?)


内容としてはイアン・エアーズの”その数学が戦略を決める”に一見近く、数学が犯罪解決にどのように使えるかを説明しています。ただし、”その数学が戦略を決める”が多変量解析の様々な応用を述べていたのに対して、こちらでは様々な数学アイデア(一部は数学というよりもテクノロジー)をどのように犯罪解決に応用するかということを述べています。


画像エンハンス、バースディパラドックス、指紋やDNAの数学などについて述べています。数学アイデアとしては目新しいものはほとんどありませんでしたが、それほど高度でない数学とデータが、様々な判断にどのように使えるかの洞察も得られます。実際の企業や日常では、データを集めることが大変そうですが...

 
 
他の方の書評を読んで:
http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20081210 

犯罪にかかる人間模様が面白いのは,まず統計確率の裁判所での応用を巡る難しさだ.アメリカは陪審制であり,(日本でもこれから裁判員制度が導入されるのだが)如何に普通の人々に確率として提示されている数字の意味をわかってもらうかというのは重要な問題になるだろう.また統計を利用して犯罪があったか無かったかを検定した実話(看護婦が受持患者に心臓発作を起こさせて自分が救出に活躍する)は結構衝撃的だし,このような検定というアイデアは発見されにくい繰り返される犯罪の感知手段として広範囲に有用だと思われる.

 
たしかに確率解釈はある程度の知識が必要です。データが多数あるところでは変化点検出やクラスタリングは役に立ちそうですが、他の人に詳細を説明するのは大変そうです...
 


http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51049326.html 


なにしろ本書が扱っているのは犯罪捜査、そして裁判という実学。数学の解説本は、教科書も含めどうしても「解説にあわせて問題を作る」ため「役に立った感」がどうしても弱くなるが、本書ではその「役に立ってる感」が実感できる。
 
設計やさまざまな分析を含めて様々なところで数学は役に立っていると思いますが。1つのネタ(犯罪捜査)にこのような様々なものが使えるという点では興味深いでした。言われたら分かる、という内容が多かったのが残念ですが...
 
あと、翻訳。訳者の山形浩生のサービス精神--またはその過剰--は、好みが別れるところだろう。よい点としては、コンテキストを一度きちんと消化した上で再構成しているので、原著をただ訳したものより理解しやすい。欠点としては、その過程で著者の言説と訳者の注釈を峻別しにくい。訳者が目立ちすぎてしまうのだ。本書に関しては、好みよりも山形節がちょっと強すぎたように思う。
 
山形氏の翻訳、いや解説には賛否両論あるでしょうが。あのノリが受け入れられるならば、山形翻訳(と解説)は中毒性があると思います。”訳者翻訳”を読んだら、思わず山形翻訳の本をまとめ買いしちゃいました....
posted by 山崎 真司 at 06:05| Comment(2) | TrackBack(1) | 社会一般

2009年09月24日

地球全体を幸福にする経済学

ジェフリー・サックス著
早川書房  2300円
初版: 2009年7月 
 

 
原題は"Common Wealth : Economics for a Crowded Planet"です。
コロンビア大学地球研究所所長で、国連ミレニアム・プロジェクトのディレクターも勤めているジェフリー・サックスの著作です。
”エコ”や”グリーン”といった視点の本は多数書かれていますが、分析も含めて対策を書いている本は非常に少ないと思います。その点で、この本は対策まで記述した本です。
似た内容にトーマス・フリードマンの”グリーン革命”がありますが、”グリーン革命”は技術的な点に偏っており、アメリカ視点で国家レベルまでの対策までとなっていますが、この”地球全体を幸福にする経済学”は国際レベルでの対策となっており、まさに経済学という様相となっています。


所得格差は国内レベルのみでなく国際レベルで見ても社会システム全体を不安定にする要因というのは理解できますし、また持続可能な社会(地球環境へのダメージを防ぐ)という視点での地球環境を共有資源としてみると、これらの問題は経済学的視点で考えなければならないといえます。


所得格差の問題というのは主にアフリカにおいて、インフラが未整備(主に農業インフラ)であること、医療のレベルが低いこととがメインでしょうか。

また、持続可能な社会という視点では、化石燃料などによるCO2の排出の問題と、人口爆発によるエネルギー・水・食料ストレスの問題が中心でしょうか。


これらの問題について、国連ミレニアム・プロジェクトでは各種提言を行っていますが、サックスによると、これらの問題はそれぞれ解決可能で、この本で提言しているすべての問題を解決するには支援国のGNPの2.4%の予算が毎年あれば対策可能(もちろん永遠でなく、ある時点まで)としています。

言うまでもなく、人口爆発についても、地球温暖化についても、これらの対策については放置すればするだけ対策コストは増大していきます。


こういった問題を認識しながら、これらの問題を放置するのは世代間の所得移転といえると思います。

アフリカの問題は彼らの問題という視点でなく、世界の問題は我々の未来の問題であると思いました。


グリーン革命がテクノロジーに寄りすぎていた分、こちらの方が納得感がありました。


他の方の書評を読んで:

http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51270486.html
500ページ近い大著であるが、原題の"Common Wealth"をおさえながら読めば、あっという魔によめてしまう。著者の提案は簡単だ。「Their problems ではなく、Our problems として扱え」。
その点に関して、米国は正しい選択をした。原著が上梓されたのは2008年3月。次の大統領はまだ決まっていなかった。彼らが選んだのは、かたくなにまで"they"を避け、"we"を掲げる人だった。


TheirとOurという視点は面白いです。このTheirは、”アフリカや他の国”でもあり、同時に”わが国の未来”でもあると思います。

 

http://d.hatena.ne.jp/lackofxx/20090818/1250628158
地球交響曲のテーマもそうだけど、まずは問題意識を持つこと。そしてそれを自分にも貢献できる課題だと理解すること。そこがスタートライン。
その後はみんな、自分の意見もあるだろうから、よく考えて行動すればいいと思うが…。とはいえ、いまの単純な選挙モデルだとなかなか上手くいかないところがあるのも確か。バザールモデル、もう少し何とかいかないものかね。


ある程度の税金があり、それ以外は寄付というシステムになっていればバザールモデルといったシステムも成り立つ可能性がありますが。現状の民主主義のシステムにおいて、このような共有地問題を解決するのは難しいと思いました。やはり国連というシステムが大事なポイントということだと思います。

posted by 山崎 真司 at 21:06| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会一般

2009年09月19日

生命とは何か

エルヴィン・シュレディンガー著
岩波書店 600円(税別)
初版: 2008年5月(1951年版、1975年版がベースの文庫版)

 

 
 
原著は1944年ですが、もともとは1943年の講演にしたものです。


量子物理学者であり”シュレディンガー方程式”や”シュレディンガーの猫”で知られるエルヴィン・シュレディンガーが、生物学について述べたものです。


さすが一流の物理学者だけあって、論理がしっかりしており、分からないことは触れないといった感じでしょうか。

いくつかのポイントとしては、ブラウン運動があるために、生命体はある一定の大きさでなければならないということがあります。たしかにある程度の大きさがないと、温度の高い所ではブラウン運動の影響を受けます。
(また、非常に小さいと、不確定性原理の影響が遺伝子のデコードに影響を与えそうですが、それはまた別の話?)


また、ここでは生体エントロピーといった概念を述べています。通常、エントロピーというと、熱力学的なエントロピーか、情報理論でのエントロピーといったものを意味しますが、この生体エントロピーはほぼ熱力学的なエントロピーに近い概念です。

これはイメージ的には生命は常に崩壊の方向にある(ほっとくと熱力学的なエネルギーに勝てない)ので、負のエントロピーと称されるエネルギー(化学エネルギー)を体に取り込んで、自己再組織化をし続けなければならないということになります。


この本は、今の先端を述べているわけじゃないのですが、分子生物学という1ジャンルがどのようにして起こったのかというのを追体験できるという点で、この本自体が科学史であるともいえます。また科学において、ある分野の人が、他の分野についてどのように分析するかといった点でも興味深かったです。

posted by 山崎 真司 at 10:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般