2015年05月08日

隷属への道



2つの世界大戦の間の時期の自由主義vs全体主義の戦いについての本といった感じでしょうか。この全体主義というのは、ファシズムと共産主義ですね。

読んでいるとフランシス・ベーコン、ロック、ヒューム、J.S.ミル、ベンサムといったイギリスの思想家と、デカルト、カント、ヘーゲル、マルクスといった大陸(主にドイツ)の思想家の違いというのが背景にあるんじゃないかということを感じます。多くの経済学者がそうだと思いますが、ある一定はミルのような思想を共有していると思います。

基本的にこの本は全体主義批判の本ですが、読んでいると(似た出自の?)P.F.ドラッカーやカール・ポパーが繰り返してきたことを再び読んでいるような印象があります。

ハイエクの経済思想についてはシカゴ学派らしいということくらいしかわかりませんが、国への信頼というものが私たちとは全く違うし、現代の日本の右派とは違う、「これが右派だよねー」、という気持ちになりながら読んでました。

21世紀から振り返って見ると、共産主義の大掛かりな社会実験は失敗に終わったように見えますが、このような全体主義的な思想はあちこちでくすぶっているんじゃないかと思ってます。

特に日本の場合は高齢化に伴って高福祉化に大きく舵を切りそうで、その中で全体主義化の流れ(たぶんいわゆる左翼の人たちが心配する軍国主義なものでなく、全く逆の福祉のために経済や自由を制限するもの)がこれから待っているんじゃないかということを想像しちゃいました。

posted by 山崎 真司 at 15:54| Comment(2) | TrackBack(0) | マーケティングの本

2011年06月27日

影響力の武器 実践編

影響力の武器 実践編―「イエス!」を引き出す50の秘訣
N.J.ゴールドスタイン S.J.マーティン R.B.チャルディーニ
誠信書房
売り上げランキング: 12582


タイトルを聞くとは影響力の武器の続編っぽいのですが、原題は"YES! 50 secrets from the Science of Persuation"となっており、著者もチャルディーニというよりもその弟子が書いた本といったものです。ただし、内容は影響力の武器の続編といも言えるものです。

50の章のそれぞれで、「こうやったら、こうなった」、「こうやったら、こうなった」というように、心理学の実験とその結果が紹介されています。つまり、影響力の武器とほとんど同じスタイルをとっています。

例えば返報性の実験として、ウェイターが客にキャンディーを渡すのとと渡さないのでチップの金額がどのくらい違うか?また、ラベリングの実験として、「あなたは投票を通じて政治に参加する、平均より意識の高い市民だ」と伝えることでどの程度投票率が上がるか、といった実験などが載っています。


これらの実験は実験自体もとても面白く、知的好奇心を満たすものですが、さらに加えて営業やマーケティングで使えるテクニック満載とも言えます。

影響力の武器と同様にオススメの一冊です。


posted by 山崎 真司 at 12:53| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本

影響力の武器

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか
ロバート・B・チャルディーニ
誠信書房
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心理学の本ですが、ビジネス書としても有名な”影響力の武器”です。今は第2版が出ていますが、残念ながら新しい版はもってないので古い版を元に書きます。


この本は、認知バイアスの研究などではいまだに参考文献に名前が出てくるその筋の第一人者ロバート・チャルディーニが、返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、稀少性といったキーワードを通して説得について説明しています。

この本はページ数も多く専門的な本に一見見えますが、実際には非常に読みやすい本です。それは返報性などのキーワードがそれぞれ章になっているのですが、これがエピソードの塊だからです。例えば、好意の章にある類似性の説明では、1970年代に行われた「電話をするために10セント貸してと様々な格好で頼んだ場合に相手が応じた割合」といった話が書いてあります。

これらの社会心理学的な実験は有名なものも多く、それぞれがよく考えられた実験です。それぞれのキーワードの説明を理論で説明するのでなく、「こうやったら、こうなった」、「こうやったら、こうなった」という具体的な事例で進んでいくので、どんどん読み進めていけます。


心理学に興味のある方、営業やマーケティングに関わるビジネスパーソンに読んでもらいたい一冊です。決して損はしないと思います。

posted by 山崎 真司 at 12:39| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本

2009年12月22日

フリー

クリス・アンダーソン著
NHK出版 1800円(税別)
初版: 2009年11月

 

 
ロングテールで有名な、クリス・アンダーソンの新刊です。クリス・アンダーソンはワイアードの編集長でありテクノロジー系のライターですが、前作のロングテール、今回のフリーと非常にビジネスについての洞察が深いライターです。


ハードディスクや通信回線料金の低価格化といった背景の下にコンテンツのデジタル化が進み(逆にそれが低価格化を産む)、コンテンツを”売る”ということのコストがゼロに近くなっています。

この本では”FREE”(無料)という視点から、その名の通り”無料”を活かしたビジネスモデルについて様々述べています。
 
この背景には、CDの媒体を焼くコストは非常に安くなり、ハードディスクやコンピュータの低価格化により、多量のデータも安価に蓄えられるようになったことや、インターネットを使うことで、無償にしろ有償にしろ様々なマーケティングも行われるようになったことがあります。


フリーのビジネスモデルとしては、ラジオやテレビの放送といった広告モデルや、フリーウェアで素人向けのサポートサービスで儲けるといったものがありますが、それ以外の様々なモデルについて述べられています。この様々なモデルは、価格戦略や試供品ビジネスの延長にあるのですが。現在のコストや技術の下でできるようなったビジネスモデルが様々あり、それらを解説しています。

 
このビジネスモデルの例としては、新聞にCDを無料でつけてコンサートの入場料で稼ぐといったことやインターネットに未公開映像などを流してDVDの販売を増やすといったこと。また、無料で番組案内をしておいて、音声認識エンジンに活かす等々の様々なモデルが述べられています。


内容の詳細については様々なブログで書かれていると思うのですが。


この本から感じることは、ITを中心としたテクノロジーが直接的にビジネスを改革しているということです。ITによってできることが急速に増えているのに、マーケティングがまったく追いついていないということがあります。

結局、マーケティングを行っている人たちが、ITにどっぷり浸かっていないためにチャンスに気付いていないということなんでしょうが...
この本を読んで当然と読むか驚きと読むかです。おそらく誰が読んでも驚きが隠されている本だと思います。


前評判とおりで、今年読んだビジネス書の中では一番面白かった本でした。

posted by 山崎 真司 at 22:34| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本

2009年10月07日

機甲戦の理論と歴史

菅原和三著
芙蓉書房出版 1900円(税別)
初版: 2009年6月

 


タイトルの通りの機甲戦(戦車などを中心とした機械化部隊)についての戦史について述べられた本です。有名な(古代の)戦車戦であるカンネの戦いから始まって、モルトケからゼークトのドイツ(プロイセン)の陸戦史を軽く見てから、大戦でのドイツ、ソビエト、英仏米、日本の陸戦史についてそれぞれ触れて、それから現代の陸戦について述べています。


読んでいて一番強く思ったのは、第2次大戦時のソビエトの陸戦力の強さでしょうか。T34の火力と実際の戦果を見ると、これまで漠然と思っていたソビエト軍についての認識を新たにしました。


また、イスラエル軍の「オールタンク・ドクトリン」と「走る生命保険会社」と言われた(言われている?)戦車のメルカバでしょうか。イスラエルという国の事情(人が少ない)をカバーするために、乗員を守ることを第一の設計思想とした戦車というのは非常に興味深かったです。


機甲戦について概略をつかむにはいい本だと思いました。

 
 
他の方の書評を読んで:
 
http://ki-44.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-08d5.html

 なるほど、素晴らしい。『銀河英雄伝説』を読んで/観て「用兵」に興味を感じるような方なら、知的興奮をもって楽しく読めるはず。
 また軍は、規律を重んじる──(文字通り)自他の生死存亡がかかった任務の性質ゆえに命令遵守が基本的には絶対で、硬直化・保守化が起こりやすい組織である(らしい)。しかし時々刻々かつ時代と共に変化する状況──もちろん時間軸上の相違だけではない──に、小〜大の目標達成の為に柔軟に対応しなければならない。そのような組織の弊害に対処する、編組・運営などのエッセンスに興味を持つような方にも。(経営的な読み替えを促すような、直接的な記述は無いが)


ドクトリンや組織といった点については、この本ではあまり触れられていませんが。
それでも組織運営のヒントを読み取ることも可能かと思いました。

まぁ、日本の経営者やコンサルタントさんは戦争モノ好きな人が多いですしね..
 
posted by 山崎 真司 at 21:20| Comment(2) | TrackBack(0) | マーケティングの本

カオティクス

フィリップ・コトラー、ジョン・キャスリオーネ著
東洋経済 1800円(税別)
初版: 2009年9月

 

 
マーケティングの大家として知られるフィリップ・コトラーと、(私は知らない)ジョン・キャスリオーネとの共著です。
 
歴史上何度も言われてきたことではありますが、ノーマルは終わりニューノーマルの時代になったという認識の下。ニューノーマルでどのように企業は行動すべきかについて述べています。
 
これまでのこの手の本との最大の違いとしては、この本はニューノーマルをポストサブプライムローン時代としています。このポストサブプライムローン時代に、マーケティングの大家コトラーが何を述べるかというのは非常に興味深かったです。


ただし、基本的には非常にシンプルな主張をしています。

 
いくつかのポイントとしては、

・世界不況が中程度か深刻か、そして金融市場が停滞したままか回復するか、の2軸の4つのシナリオの下に経営プランを立てること。
・様々なイベントに対して会社全体で対応しなければならない。実際に個々の担当者や役員が危機を認識していても、結局何もしないということが多い。
・危機を乗り越えるためには、反応性・強靭性・弾力性の3つが必要となる。

といったところでしょうか。


コトラーの本ということで期待して読んだのですが、少々物足りないというのが正直な感想です。”これまでにないほどの危機”というレトリックは既に飽きてしまったということでしょうか。

posted by 山崎 真司 at 20:13| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本

2009年09月21日

ロングテール アップデート版

クリス・アンダーソン著
ハヤカワ新書Juice 1400円(税別)
初版: 2009年7月(原著初版は2006年7月)

 

 
著者のクリス・アンダーソンはWiredの編集長であり、テクニカル畑のライターです。


アップデート版ということで、いまさらながら読んでみました。
ポイントについてはすでに知られているように、

2004年の話ですが、デジタルジュークボックスメーカーのイーキャストで「3ヶ月以内に1回以上販売された曲が、登録さている1万枚のCDのうちいくらか?」という問いに対して、答えは98%でした。これが、アンダーソンがロングテールへ進んでいくきっかけとなりました。


ロングテールの販売のポイントとしては、べき乗則の法則があるとしたら、最大利益のためには在庫コストと期待収益の交差点になります。
(実際には、ここにいけばある、ということで客が来るので、期待収益ラインは現在の予測される期待収益よりもじゃっかんべき乗則的に緩いものになるでしょう)


この在庫コストについては、リアル店舗よりも通販店舗で下げることができますし、さらにマーケットプレイスやドロップシッピングのような仕組みを使うことで下げることができます(その分、期待収益も激しく落ちますが、在庫コストがゼロならば十分でしょう)。もちろんデジタルコンテンツ販売では期待収益が落ちないままで、在庫コストもごく小となります。


また、このようなロングテールを売るためには、プリフィルタ(担当者が仕入れる商品を選択する)でなく、ポストフィルタ(在庫を持ったあとで、顧客が選択する)が大事となり、そのためにはレコメンデーション(おすすめ)のデータベースなどの仕組みが大事となります。


こうやってみてみると、ロングテールはインターネットでのB2C向けの概念と思っていたのですが、B2Bの商社やリアル店舗のセレクトショップといった業態に対しても知見を得られる本ではないかと感じました。その場合のポイントはポストフィルタなんでしょうが...

posted by 山崎 真司 at 05:17| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本

2009年08月10日

売れる!伝わる!ネーミング

藤村正宏著
PHPビジネス新書 800円(税別)
初版: 2007年3月

 


 

サブタイトルは”「五感に訴える名前」の作り方”です。最初に、「ネーミングというキーワードから、マーケティングについて書いたもの」とあり、実際にマーケティングの本です。


ただし、考えてみればマーケティングセグメントやマーケティングミックスはネーミングと不可分です。

ポイントとしては
・ネーミングはターゲットを明確にして行う
・ネーミングには”自信”と”覚悟”を込めて、価値を伝える
・ネーミングでは物語の演出を行う
・”独自化”という視点を持とう
といったところです。


実際にこれらはすべて「マーケティングとは」と言い換えても完全に成り立ちます。


この本は”理論の本”ではなく、新書らしくいくつかの成功事例が羅列された本です。
それぞれの事例はすべてネーミングという視点で書かれていますが、すべてマーケティングの本として読むことができます。


この本は初心者向けかと思いますが、マーケティングについて分かりやすくまとまっていました。
網羅的でも汎用的でもありませんが、読みやすくマーケティングのエッセンスが学べる本だと思います。マーケティング初心者には結構オススメです。

posted by 山崎 真司 at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本

届く、当てる、的を射る。

今田純著
日経BP社 1500円(税別)
初版: 2008年10月

 


 

サブタイトルが”エンゲージメント時代の広告心得帖”とありますが、今の広告のあるべき形について述べた本です。まとめると、
「Web2.0時代になってマーケティングは変わりました。広告も同様です」
といったところでしょうか。


以前と比べて、広告が氾濫しています。また、インターネットのページなども氾濫しているため、そもそも広告が消費者の目にすら入らないということが増えています。加えて、消費者の広告に対する反応も以前のようなものでなくなっています。


これらのことは広告の評価の軸を、到達率とでもいうべき”視聴率”から、顧客の広告体験とでも言うべき”視聴質”へシフトする必要をあらわします。


このためには、従来の4P(Product, Price, Place, Promotion)といった供給者視点のマーケティングミックスを、4C(Customer value, Cost, Convinience, Communication)といった顧客視点からみたマーケティングにシフトしないと述べています。


この本で、述べていることは一般的な理論であり、それぞれどこかで言われているもしくは一般的なことで、それほど新しいことではありませんでした。

posted by 山崎 真司 at 15:17| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本

2009年07月07日

広告マーケティング21の原則


 

クロード・C・ホプキンス著
翔泳社 1600円(税別)
初版: 2006年11月(原著は1923年)


最近、ビジネスにおいては戦術レベルにおいてはコピー力が圧倒的な差別化要因ではないか、と思います。

いかにキャッチーで、魅力的なコピーを作ることが出来るか、は自分をどのようにアピールするかというブランディングと並んで、ビジネスの必須スキルと言って過言ではないでしょう。


そんなわけで、ひさびさに再読してみました。初版の日時をみると、2年半ぶりでしょうか..


ポイントとしては、

・商品が提供するサービスを知らせること
・テスト広告の重要さ
・好奇心は最も大事なキー
・具体的に知らせるべし。数字で語れ
・読み手の関心を引いたり、注意を引いたり、笑わせたりするだけのために何かしてはいけない
・他社が行っていない印象的な差異ポイントを探すこと
・広告が伝えている魅力は真実で、不変であるという印象を与えること

といったあたりでしょうか。

通販がメインということで、今のようなブランディングメインの広告などがなかった時代の本ですが、
ベースにある「広告は売るためのものであり、それをひたすら考えるべし」という教えは不変でしょう。


ただし、この本はコピー力の本ではありませんでした..記憶違いでした。

posted by 山崎 真司 at 22:58| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティングの本