2012年10月12日

貧乏人の経済学




BOP(base of Pyramid)と呼ばれるような所得は低いが人口が最も多数を占める人たちについての経済学です。この手の本としては、ジェフリー・サックスの本や、ポール・コリアーの本などを読んだことがありましたが、この本が一番面白いです。


貧困問題というと、「世界にはあなたの**円で救える命があります...どどーん、と痩せた女の子の写真」で寄付を募るといったものや、「***(アフリカの国名)に学校を作りましょう...鉛筆をもった子供たちの教室風景」といった寄付プロジェクトがよくあります。これって意味あるんでしょうか?そもそも、最大の問題は何?(効果が高そうなものは?)

フェア・トレードといって「海外にもたくさんのお金を払うよ」みたいな製品がいろいろありますが、だいたいが労働集約的な商品(コーヒーのような農産物か内職で作るようなモノ)が多く、結局は低付加価値の商品を続けるインセンティブになるので適切ではなく、むしろ発展途上国の工業製品をフェアトレードすべきといった話もあります。

(僕はフェア・トレードのような貧困を固定化する方向の所得移転よりも、直接お金を払う寄付の方が適切だと思いますが...)

じゃあ、一体どうすればいいのでしょうか?

ジェフリー・サックスもスティグリッツもポール・コリアーも様々なことを言っていますが、実際のところどうなんでしょうか?

学校を作ったらそれで幸せになるのでしょうか?(→なんとなくなりそうな気がする)
世界銀行からお金が国に流れた場合に、役人が懐にいれないようにするにはどうすればいいのでしょうか?(→国のトップが懐に入れるのは防ぎにくそう大変そうだが、下級役人が懐に入れるのは防げそうな気がする)
有名な成功例のマイクロファイナンスには、具体的にどのような欠点があるのでしょうか?(→マイクロファイナンスが称揚されまくっているが、そんな宣伝を信じるほどウブじゃないです)

これらの問題に答えられる唯一の方法は実践です。この本はランダム化対照試行という手法で、2つの似たグループで条件を変えることで実践するというものです。


マラリアのある地域では蚊帳は無料で配るのと安くするのとどちらがいいでしょうか?

この答えは理論や議論の結果でなく、実際に試してみるのが一番です。どちらがより使われているか?しばらく経ってからまた買いに来るのか?こういったものをまとめたのが本書です。


つまり、この本は貧困問題の様々な側面について、「実際に実践してみた」ことと「実践しなかった」ことの比較についての本なのです。もちろん場合によって「条件を変えてみた」というのもあります。世の中には”確認しなきゃわからない”ことを思弁的に答えを出そうとする人もまだまだ多いですが、この本はかなり大規模に”確認してみた”結果をまとめたものなのです。


貧困問題に興味のない人も、行動経済学の大規模実験の本としても読むこともでき、とても刺激的な一冊だと思います。


トナカイキリンさんがこの本について書いた”NGワード「どっちもどっち」「なんとなく」”も読んでみて下さい。
posted by 山崎 真司 at 11:59| Comment(2) | TrackBack(1) | 社会一般
この記事へのコメント
面白そうですね。
読んでみようと思います
Posted by トナカイキリン at 2012年10月14日 07:17
コメントありがとうございます!

是非とも読んで下さい:-D 経済学という面のみでなく、心理学(≒行動経済学)という面からもとてもおもしろかったです(^^)//
Posted by やまざきしんじ at 2012年10月14日 21:02
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[キリン][読書の感想文]NGワード「どっちもどっち」「なんとなく」
Excerpt: ついこないだ、映画「僕たちは世界を変えることはできない」を観て、ちょうど貧困問題を考えていたところ、偶然やまざきしんじさんのBlogを拝見し、以下の本を読んでみました。 貧乏人の経済学 - もういち..
Weblog: トナカイキリン 〜EuphorbiaStenoclada〜
Tracked: 2012-11-01 06:39