2011年10月23日

プルーストとイカ

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
メアリアン・ウルフ
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神経科学、発達心理学者のメアリアン・ウルフの著書です。タイトルは変ですが、プルーストは”読書”、イカは”神経科学”のことです。

この本は大きく3つの部分からなります。1つめは主に西洋の文字の歴史2つめは字を読む時の脳の機能について、3つめは読字障害(ディスレクシア)についてです。


基本的には神経科学的な観点から読書について語るというものですが、繰り返し出てくるテーマがあります。それは、ソクラテスによる文字批判というものです。これは、ソクラテスは、文字が広まることでそれまでの口承文化が廃れていき、また文字に頼ることで人が考えなくなっていくというものです。口承文化については既に途絶えていますが、文字によって自ら考えなくなるという批判はこれまでも繰り返し行われているものです。

また、この批判を「口承文化から読書文化への移行の問題点」と見ると、ほぼそのまま「読書文化から検索文化への移行の問題点」と見ることもできます。もちろん「だから、検索文化はダメ」というわけではありません。


そして、本書の最大の山場となるのは神経科学(今風に言えば脳科学?)的に見た字を読む(≒読書)の際の脳の活動です。残念ながらそれほど詳細ではありません。いささか古い本ですが、苧阪直行著"読み―脳と心の情報処理"の方が示唆に富んでいると思いました。まぁ、神経科学の本と認知心理学の本ということで、それぞれが仕組みの説明と結果の説明と視点が違うわけですが..また、原著が2007年とかなり新しいのですが、ここの分野は今でもどんどんと開拓されているところなので、より詳しい類書を期待しています:->


本書の最後のポイントは読字障害(ディスレクシア)についてです。この本はとある読書会の課題本としてみんなで読んだのですが、そこでもこのディスレクシアについての言及が多かったです。残念ながらディスレクシアについては、日本ではあまり知られていないので、その啓発にもなっているのでしょうか。ディスレクシア自体については、この本は専門ではないのですが、ディスレクシアと脳について語った章は面白かったです。残念ながらこの分野の研究もいろいろと解明できているというよりも、手をつけはじめたばかりといった印象がありますが、字を読むということがどれだけ複雑な機構なのかというのが伺える章でした。


「人は言語能力が3歳までに決まる」という3歳神話や歴史上の人物のディスレクシア化など個別にはいろいろと突っ込みどころがあって残念でしたが、字を読むことについて考えるいいきっかけになる入門書とは思いました。


こちらの記事もどうぞ
怠けてなんかない! ディスレクシア-読む・書く・記憶するのが困難なLDの子どもたち

読み―脳と心の情報処理

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posted by 山崎 真司 at 22:10| Comment(3) | TrackBack(0) | その他、一般
この記事へのコメント
dislexiaって、実は英語の単語帳で初めて知りました。それまでそういう病気があることさえ知りませんでした。

口承文学って、一番思い浮かぶのはギリシャのホメーロスですかね。膨大な詩をどうやって覚えたんだろうって思います。アイヌのユーカラもそうですよね?金田一先生が調査した限りでは、あちこちのユーカラに寸分の違いもなかったという。

文字を持つことで失う能力も大きかったということでしょうか。興味のあるテーマです。
Posted by ふぃぶら at 2011年10月23日 22:31
識字障害の有名人というと、トム・クルーズやオジー・オズボーンでしょうか。
日本では絶対数が少ないせいか認知度は低いですね。

口承文化について言えば、「語り部」が必ずしも自分が語っている内容について深く知っているわけではない、という場合もあるそうですね。
いろいろと興味はあるので、いつか読んでみたいものですが。
Posted by moondrop at 2011年10月24日 00:23
ふぃぶらさん:
こんにちはー、単語帳で知ったというのがすごいですねー^^;;

口承文学は僕もホメロスしか思いつきませんでした。そしてぼくも、あれ覚えるのすごいなー、と^^;; しかもどういう形で変化したかわからないけど、あの長いのが何百年も伝承されてきたというのが驚きです。

文字を得ることで失われたものは能力もありそうですが、対話の力は失わたのかも知れないと想像しました。あ、失われたというか場を移しただけなのかな?


moondropさん:
読書会で話してた時も、認知度は低かったです(といっても半分くらいかな?) 語り部が深く知っているわけではない、というのはおもしろいですねー。俳優と演劇の関係でしょうか?子供の頃に読んだ小説のおかげで、語り部=いろいろ知ってるおじいさん、というイメージがついてしまってます^^;; 言葉がない民族はないですが、文字がない民族はいっぱいいた(いる)ので、研究もいろいろありそうですねー。ほとんど読んだことないですが((^^;;
Posted by 山崎真司 at 2011年10月24日 07:29
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