グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)
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シャーリーン・リー ジョシュ・バーノフ
翔泳社
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ここ2,3ヶ月でフェースブックで売上アップ、ついったーをビジネスに活かすといった本が非常に増えていて、大きな本屋さんに行くと本棚の1/3くらいがこういった本で溢れています。まず、プラットフォームありきのこの現象には非常に違和感を感じるのですが、一方でこういったものを煽って一儲けしようというセミナー屋さんやコンサルタントの先生方はいろいろな本を出しているようですね。
このグランズウェルはサブタイトルが”ソーシャルテクノロジー”による企業戦略とあるように、まさにこのようなソーシャルメディアの使い方も含めた企業戦略についての本です。
よくある”フェイスブックで売上10倍アップ”は、まずフェイスブックを使うことが前提でその上で売上10倍アップと煽ってますが、本来はフェイスブックというチャネルやプロモーションを使う前に、決めることがあるはずです。
この本では、POSTとして、
People 人(顧客)
Objective 目的
Strategy 戦略
Technology 技術
を上から順に規定していくことを述べています。当然のことながら、テクノロジーは最後に選択するものということですよね。ちなみに、日本では逆になることがとても多いと思います。”ソリューション”を提案しているIT屋さんも技術のみの提案でしかなく、戦略部分はプレゼン資料にある”うまくいった例”を繰り返すだけといったことがよくありますよね?
そして、そもそも、このPOSTで企業の戦略を決める際にも。そもそもソーシャルテクノロジーを使って、ブロゴスフィア(≒ネット社会)と積極的につながるかどうかを決める必要があります。例えば、掲示板を公開してブロゴスフィアとつながることを決めた場合には、多くの批判が押し寄せるなどのリスクもあり、コントロールを失ってしまうおそれがあります。このコントロールを失うという不確実さを認めた上で、それを活用していくという度量が企業に要求されるのです。
もちろん、自社のサイトに批判が集中するのはまだチェックしやすい分マシで、現在は他者からの評価や評判を免れない時代ということもできます。
あ、この本の内容自体はPOSTというべき、戦略・目的の例がずらずらと書いてある本と言えます。包括的な体系を作った本というわけではないですが、このようなソーシャルメディアを含めた企業戦略について非常に多くの示唆を与えてくれる本だと思います。
ちなみに知人とこの本のフレームワークをベースにいくつか修正をして現状分析をしたところ、その知人はまだソーシャルメディアに力を注がなくて良いという結論になりました。POSTを明確にすることが大事であって、ソーシャルメディアありきが常にベストな戦略ではないということですよね。
ハーバード・ビジネス・スクール・プレスの出版ならば、より専門的に分析されていそうで興味深いです。
機会があれば手にとって見たいと思います。
日本の書籍にはソーシャルコミュニケーションのメリットを唄ったものはあってもコストを衡量したものがあまりないので、目次を見ただけでげんなりすることもあります。
その点、この本は良さそうですね。
ちなみに専門的かどうかは分かりませんが,,きっちりクオリティに達したビジネス書だと思います。もちろんコスト・ベネフィットの分析ということはできないですが(ベネフィットの確定が暗闇への跳躍になっていることが、企業戦略の競争優位にも成り得るわけですが)、ちゃんと読んで満足感のある一冊でした。