2008年06月28日

経営戦略を問いなおす

三品和広著
ちくま新書 700円(税別)
初版: 2006年9月


カバーの返しの所に「世の大半の企業は、戦略と戦術を混同している。成長第一で事業を拡大したのに何の利益も出なかった、という企業が少なくない」とあります。


個人的な印象としては戦略と戦術を混同している企業なんてほとんどないと思いますが、戦略不在はあちこちで見られます。株式会社のサラリーマン社長では、社内のしがらみに両手両足を縛られて経営判断をしなければならなかったり、個別の事業部長が自分の功績のためにライン拡張したいといったインセンティブが働くといったことがあるのでしょうか。

 
この本では、1章で企業の売り上げの拡大は利益の拡大と全く関係ないということを実例と共に述べています。実際に日本のメーカーでは、いわゆるフルラインアップ戦略+QC活動による品質向上、といった戦略(?)を各社が取るといったことが長らく行われてきたと認識しています。


また悪評高き年次計画についても少し触れられていますが、この1章の中心は利益と売り上げの関係でしょうか。三品氏が挙げているデータの網羅性については検討の余地があるとしても、実際に同じような業態で同じような利益で売り上げが大きく異なる2社の利益・売り上げの推移をグラフとしてみると納得感があります。

実際に、この本は経営戦略を問い直してはいるものの、経営戦略がどうあるべきかという点については「戦略は人に宿る」といったいわゆるアート性について述べているにすぎません。

つまり、これは問題提起のみの本といったところなのでしょうか。少なくとも、「選択しない」という戦略モドキを取っている人にはオススメ本ですが。
 
http://dorablue.blog51.fc2.com/blog-entry-1121.html

例えば、デル・モデルで有名なデルの戦略は「市場に素早くモノを届けること」「同業他社に顧客サービスで負けないこと」「最高の性能と最新の技術を有するコンピューターシステムを、顧客の要望に応じてカスタム化して、揺らぐことのない品質水準で生産することに、トコトんこだわり続けること」「インターネットの可能性をいち早く開拓すること」なのですが、これを見て「さすがデル!」と思ってしまった人は、戦略について今まで学んだことを全て忘れて、0からこの本で学んだ方がいい。そういう本です。
 
うーん、戦略の創発性についてですね。ある企業の結果だけ見て、それをスゴイというのはどうかと思いますが。一方で、こういうものを作りだせることは戦略に依存するのではないかと思います。
 
実際に、売れる(売れた)商品を作ったことがありますが、その結果は運や営業さんの頑張りに大いに依存しますが。ただ、商品を開発する際や、会社のマーケティング戦略も大いに影響を与えていたと思います。
 
ただし、このようなアンチテーゼを定期的にぶつけることは、問題の理解には必要なことですね。 
 


http://syousanokioku.at.webry.info/200709/article_3.html

ところで、高収益企業に働く人は果たして幸せなのか? そういう会社は得てして仕事が異常にきつく、得るサラリーのコストパフォーマンスは微妙だ。売上がでかくても収益率の低い企業は悪なのか? それは会社の利益を圧迫して(余剰人員と誹られる)多くの(優秀でない)一般大衆従業員を養うことで大きな社会貢献をしている証ではないのか?
 
この本の感想とは別のところですが、これはちょっと感じるところがあります。


一つ目は、よく「大企業はこんなに稼いでいるので、もっと税金を取ればいい」ような言説があまり深い分析なしに行われることがありますが、それは企業の人が自分たちの身を文字通り削っているのではないでしょうか?一方で、世界的超大企業の社員が例えばうちは1兆円も稼いでるのにボーナスはXXしかもらえない」と言うのを聞くと、「あなたは2番目の企業の社員よりも例えば3倍の能力を有してたり、3倍の努力をしてるのか」と思ったりします。

二つ目は、企業利益と社会貢献です。例えば同じ利益でも、売り上げが大きく社員数が多ければ、社員数と売り上げの分社会貢献してるといえます。もちろん、投資家から見れば投資対効果が下がるので魅力的な企業ではありませんが。
 
 
 
posted by 山崎 真司 at 07:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 戦略論
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