2008年03月16日

補給戦

マーチン・ファン・クレフェルト著
中公文庫 1429円(税別)
初版:2006年5月

内容:
原著は1977年で、元々は原書房から1980年に出ていたようですが、中公文庫で復刊したものです。著者は1946年オランダ生まれのユダヤ人で、1950年にイスラエルに移民して、その後、ヘブライ大学の歴史学教授になっています。

本書は戦争において、補給が与えた影響はとても大きいが、これまでの補給の分析は定性的なものが多く、定量的に補給を分析して戦略や戦争にどのような影響を与えたかを分析しています。内容は8章立てですが、ある期間ごとの戦闘において補給というものがどのような影響を与えたかを分析しています。主な章では、16〜17世紀、ナポレオンの時代、モルトケの時代、第二次世界大戦のヒットラー(ドイツ本土)、第二次世界大戦のロンメル(アフリカ戦役)、第二次世界大戦の連合軍、といったあたりの戦いを分析しています。


感想:
元々はゲイリー・ハメルの「経営の未来」で引用されていた「軍事革命とRMAの戦略史 軍事革命の史的変遷1300〜2050年」を読もうと思っていたのですが、その前に軍事史系の本を読んでおこうとして読んでみました。

ポイントとしては、16世紀頃から、戦争での動員人口が増えた(これ以降急激に増え続けている)、その結果として軍隊の食事が問題になってきた。初期は軍隊が動き続けて、現地徴発を続けることでなんとか軍隊が食べていくことができた。それ以降は1軍の規模を小さくしないと現地徴発だけでは食べていけない。これらのことが戦略自体を左右するようにもなる。
また、それ以降は軍隊が大きくなっていくごとにさらに補給自体の難しさが増していった。鉄道や自動車が出来てもその問題は解決するどころか、食糧だけでなく武器や弾薬の重要性が増して、補給による制限がますます大きくなってしまった。


結局、16世紀から補給が問題になり、理想的な、もしくは机上での最適な戦略と、実際に実行可能な戦略の間のギャップができていたが、このギャップは第二次世界大戦の時期までではますます大きくなっていた、といったところでしょうか。

特にこの本を読んで現実社会に使えるという知識はあまりありませんが、歴史を解釈する上で、技術力や農業生産力や戦略だけで考えずに、補給というものが戦略を束縛していることを踏まえて解釈しないといけないということが分かりました。
微妙にここにもメモを書いてます。


他人の書評を読んで:

http://bookguidebywingback.air-nifty.com/military/2006/06/post_c4fa.html
これらの結論が、可能な限り正確な資料を精査し、計算することによって証明される。個人的に印象に残るのは、駅や港湾の荷捌き能力に戦争そのものが強く制約されることだ。”兵站線”を守れても、大量の荷が捌けなければ意味がない。このへんの能力は、現代ではアメリカ4軍だけが実際の戦争を戦えるだけのものを持っているといえる。
言うまでもなく(?)システムはそのボトルネックに制約されます(TOC..制約理論を参照してください)。この本の中では、ウイングバックさんが書かれているように、駅や港湾の積み降ろし能力に制約されます。


http://koppa.blog.ocn.ne.jp/koppaoukoku/2006/10/post_9d8b.html

しかし、これを読むと、軍事的なかがやかし戦果というものが、結構危ういものだったり、それゆえにその戦果は指揮官の天性によるものだなというこを思い知りました。
軍事的な戦果が指揮官の天性によるものか、というのは分かりませんが、補給というものが常に非常に危うく、しかもほぼ常に軽視されてますので...それが戦争自体を左右しそうです。


http://www.specialprovidence.net/books/logistics_war.html

実際にはアメリカ南北戦争のはずで、北軍はバリバリ鉄道を建設しながら進撃していった歴史があります。また日露戦争もロシア側は単線のシベリア鉄道に補給を頼って、ついには業を煮やして全ロシアから貨車をかき集めて片道輸送(満州に着いた貨車は補給物資を下ろした後線路際に放り出して投棄)により輸送力を上げるなどというとんでもない手段に出る一方、日本側は大連に陸揚げした補給物資を運ぶために物凄い勢いで南満州鉄道の改軌(ロシアゲージから日本狭軌へ、戦後標準軌に再改軌)をするなど、鉄道輸送が死命を制した戦いとして知られています。そうした点についても触れて欲しかったものですが、それでも第2次世界大戦以前の補給の実情について詳しく書かれている珍しい本なので価値があるでしょう。
南北戦争や日露戦争については全く知らないのですが..本書中でも線路のゲージの話がありましたが、実際に防御面ではゲージの差異ということすら影響を与えるということですよね...
posted by 山崎 真司 at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 戦略論
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