2012年05月06日
大気を変える錬金術 ハーバー、ボッシュと化学の世紀
ハーバー・ボッシュ法で知られるフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュの伝記です。二人共ノーベル賞受賞者ですね。
ハーバー・ボッシュ法というのは窒素固定法です。窒素固定法というのは、畑をしばらくしていると畑中の窒素がなくなってしまい(地味がなくなる)作物が上手くならなくなってしまいます。これに対応するためには、豆類を植えることを行います。三圃式農業という、穀物、穀物、放牧地、とローテーションする農法の放牧地も窒素の回復のためです。つまり、農作物は、窒素がポイントなのですが、窒素を畑に補給する方法はあまりありませんでした。
各地にある硝石は良い肥料になるのですが、南米や各地で取れていた硝石なども次第に採り尽くされていきます。そして良い肥料がなくなると、大きな問題が発生します。
この問題にどう立ち向かうのでしょうか?この本は、ドイツの科学者のハーバーが高圧を使った窒素固定法(アンモニア精製法)を開発し、同じくドイツの科学者(というか企業人)ボッシュがそれを工業化し、低コストで作れるようにした物語です。といっても、ハーバー・ボッシュ法についてのみ書いたわけでなく、ハーバー・ボッシュ法が実用化されるまでの、チリとペルーの硝石戦争についてなどについても述べられています
また、ハーバー・ボッシュ法についてだけでなく、二人のその後がむしろメインと言えます。科学者としての名声を求めたハーバーと、一企業人として生きたボッシュ。ユダヤ人であるハーバーは二級市民扱いから脱するために第一次世界大戦で毒ガスの開発に協力します。また、ハーバー・ボッシュ法は肥料だけでなく、火薬の原料にもなります。大戦中の需要はボッシュのいた企業BASFに影響を良い影響を与え、大戦後のインフレはボッシュのいたBASFにも大きな影響を与えます。また、ボッシュは途中から、石炭からガソリンを精製する方法を実用化します。
しかし、大戦後のドイツではナチスが台頭してきます。ユダヤ人であるハーバーは最後にはドイツを離れ、一方ボッシュは反ナチス的であるためか要職を追われる、さらにガソリンと火薬をドイツに提供しているという気持ちもあってか、うつ状態に苦しむことになります。
この本はハーバー・ボッシュ法の詳細についてというよりも、第一次世界大戦前後でのドイツの化学、そして、化学産業の立ち上がりという横糸を、ハーバーとボッシュという二人の伝記という縦糸をベースにつむいだ物語といったものです。歴史も、科学も知らなくても読めるような本でした。すらすら読める本でしたが、第一次世界大戦前後のドイツについて知ることができました。
