2011年11月30日

サイキック・マフィア



長年アメリカで心霊術師をしてきた著者の暴露話です。元々の原著は1976年ですが、1997年にアメリカで復刊されたのを機に日本でも2001年に出版されたものです。


内容は、心霊術師として、そして宗教法人を作って教会をやっていた著者が、どのようにして教会を作ったのか、どのようにして降霊会を成功させたのかを語っています。もちろん、すべてインチキです。様々なテクニックで聴衆そして信者を騙していきます。ちなみに、一番面白かったのは、ホット・リーディングに関する部分です。教会の向かいの家から集音マイクで雑談を聞いたり、これまでの様々なやりとりがすべてカードに記録されています。そして、これらのデータは心霊術師間で共有がされています。もちろん、相手の家に行った時は、使えそうなものを探して、場合によってはくすねてきます(くすねたものは、後で物品引き寄せで使います)


日本でもスピリチュアリズムが流行っているものの、ここまで過度なスピリチュアリズムもないし、スピリチュアリティ業界もここまで過度に商業的ではないし、そもそも”偽物”じゃないものもあると思いますが。本場アメリカの”偽物の”スピリチュアリズムがどういうものなのかがよく分かる一冊です。
posted by 山崎 真司 at 07:27| Comment(0) | TrackBack(0) | その他、一般

2011年11月26日

16世紀文化革命1

一六世紀文化革命 1
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山本 義隆
みすず書房
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一六世紀文化革命 2
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山本 義隆
みすず書房
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僕が参加している読書会でとても人気のある本、”磁力と重力の発見”を書かれた山本義隆さんの本です。”磁力と重力の発見”番外編とでも言えるような本です。

この本はタイトルの通り16世紀でどのような革命的なことが起こって、そしてデカルト、ベーコン、ガリレオ、ケプラー、ニュートンらが活躍した17世紀の科学革命につながったかというのを述べる本です。


この本を読むと、16世紀というのは、グーテンベルクの後の時代で印刷技術が盛んになったことというのが一番大きな背景になるでしょうか?このような背景の下、デューラーのような精緻な版画作家の後の時代として、様々な書物が生まれていきます。

これまでグーテンベルクの印刷技術というのは、ラテン語でなく民衆のわかる言葉での聖書の発行により思想を発展させたことや、写本と違って出版コストを圧倒的に下げることで知識の拡散に影響を与えたものと思っていたのですが、この本を読むとポイントはそこでないということを思います。

つまり、図版を多用した本を出版することにより、これまで口伝でしか伝わらなかったことが文書化できるということです。これまで本を書いても、文字情報だけで伝えなければいけなかったものが、図と絵を使うことで容易に相手に伝えることができます。例えば、この本でも”メタリカ”という本の挿絵として、鉱山で使用するポンプの絵が出てきますがこれは挿絵と言葉で伝えるのとでは大きな違いです。

これを支えるように、プトレマイオスの本の再発見とその応用により、15世紀に遠近法の基礎が確立していたのです。


また、鉱山のポンプと同様のことは医学にも大きな影響を与えます。人体の精緻な挿絵は、それまでのガレノス、アヴィセンナ、アヴェロエスといった古代ローマ、イスラムからの思弁的な医学を、実践的な医学へと進めていきます。この医学を進める原因には、さらに火薬の発展により戦争形態の変化もあります。


他にもいくつかの論点から16世紀の文化革命について述べていますが、基本的には”文書化”ということがすべての背景にあるようです。この本は、1つの事柄を様々な領域での事柄から論証していくという重厚な論の進め方をしています。こういう本は私の好みなのですが、あまり日本では見受けられません。ちなみに、日本のビジネス書が薄っぺらい印象なのもこのせいだと思ってます。

”銃・病原菌・鉄”に目頭を熱くした皆様にオススメの一冊です:->


ちなみに同時にこの本も読むと楽しめます。

数量化革命
数量化革命
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アルフレッド・W・クロスビー
紀伊国屋書店
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こちらは本当に面白いです。あらゆる人に読んでもらいたい本です。

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世
山本 義隆
みすず書房
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磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス
山本 義隆
みすず書房
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磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり
山本 義隆
みすず書房
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posted by 山崎 真司 at 16:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2011年11月20日

城 (新潮文庫)
城 (新潮文庫)
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フランツ カフカ
新潮社
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カフカの未完の大作です。審判や変身と同じ世界観ですが、これはユダヤ的な世界観でしょうか。つまり絶対的な律法の世界観です。キリスト教的な”赦し”がある世界ではなく、畏敬の対象である圧倒的な支配する力です。

これは、教会の塔にも似た城という形で、主人公Kの前に表れますが。実際には眼前に現れるのでなく、この城の見えない支配の力が主人公Kを圧倒します。ちなみにKはもちろん、カフカのKでしょうが、私は読みながら何故だかキルケゴールをイメージしてました。いや、この重々しい香りと方向性は違うかもしれないが漂ってくる宗教臭が似ているからでしょうか?

このK以外の登場人物は、すべて職業という形でラベリングされたものです。それぞれがどこかおかしいけど、それぞれの視点としてはまっとうというキャラとKが繰り広げるドタバタコメディーなのですが、実際にはメタ的な視点でのコメディーであって、全体的には鬱屈とした前に進まない感じがこの城の特徴です。


別の視点からこの本を読むとすると、ミシェル・フーコーのパノプティコンといった視点なのでしょうか。まぁ、フーコー嫌いなんでアレですが、圧倒的な監視の力という絶対力があたかも神の偉力のように隅々まで行き渡っています。そして、主人公であるK以外のすべての村人も、監視されていると同時に、監視する主体として城というシステムに組み込まれています。この世界観を読み取るために、監獄の誕生を読むか城を読むかといえば、こちらの方が面白いと思います。小説と現代思想を並べるとその筋の人には怒られそうですが...


この小説は、読んでもグツグツグツといった感じでカタルシスがほとんどありません。ここが好みの別れるところだと思います。
posted by 山崎 真司 at 07:22| Comment(9) | TrackBack(0) | 小説

2011年11月14日

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン マイケル・レイナー
翔泳社
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イノベーションのジレンマで知られるクレイトン・クリステンセン(と愉快な仲間たち)の本です。基本的にイノベーションのジレンマで書かれたことのより深い考察という形式になっています。かなり前に図書館で借りて読んでからの再読になります。ちなみに”イノベーションへの解 実践編”と違うので要注意(本書の方が面白いと思う)。

まず基本はイノベーションというのが持続的イノベーションと破壊的イノベーションの2つに分けられるという考え方です。持続的イノベーションは、ほとんどの商品ですが、例えばパソコン(Windowsパソコンほぼすべて)や車(カローラの後にクラウンを開発しても、新型カローラを作っても)といったものです。一方、破壊的イノベーションは、スマートフォン(電子手帳でもいいわけですが)やAmazonのKindleなどがあります。

基本的に破壊的イノベーションは、それまでの商品よりも、製品の品質の点ではかなり劣るが、かなり安い、それゆえにこれまで消費者ですらなかった人たち(無消費者)が購入する、というものです。上の例でいえば、パソコンでスケジュール管理をしてなかった人に、パソコンよりはるかに劣る電子デバイスをスケジューラとして電子手帳やスマートフォンがあり、AmazonのKindleは紙の本ほど読書には向いていないがその分たくさん持って歩けてどこでも本をすぐ買って手元に届くというものです。他にも初期のトランジスタラジオは、音は真空管ラジオほどよくないものの安価で小さかったので、子供(青年)が自分の部屋で聞くことが出来たというのもあります。

この破壊的イノベーションと持続的イノベーションは根本的に違うものであり、企業の戦略にしても、投資にしても異なるプロセスを踏まなければならず、それらがどう違うのか、が本書のポイントです。そして上手く行った破壊的イノベーションを軸とする事業はいずれ大きくなり、持続的イノベーションになっていきます。これは、製品開発や研究開発のプロセスの違いという面もありますが、むしろ求められる売上規模・利益規模の違いでもあります。

このように製品がいずれシフトしていくという見方は、ジェフリー・ムーアのキャズム理論を別の視点から切り取ったとも言えます。また、品質の点で劣るがかなり安く、それゆえにそれまでの無消費者を取り込むというのは、キムとモボルニュのブルーオーシャン戦略にも通じるところがあります(僕は後者はあまり好きではありませんが)

それにしても、クリステンセン関係の本はどの本を読んでもわくわくさせられます。僕が新規事業畑(?)にいたというところが大きいのかもしれませんし、イノベーションというロマンに魅せられているからかもしれません。


読んでない方は下もぜひ。一番好きなビジネス書の一つです。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン
翔泳社
売り上げランキング: 824

posted by 山崎 真司 at 05:06| Comment(2) | TrackBack(0) | 戦略論