2011年10月25日

十二世紀ルネッサンス

十二世紀ルネサンス (講談社学術文庫)
伊東 俊太郎
講談社
売り上げランキング: 35441


西洋のギリシア文化(科学と哲学)の発見の話です。私はこのギリシア文化の発見は十字軍とスペインでの失地回復(レコンキスタ)で行われたと思っていたのですが、実際にはそれに加えてイタリアのシチリアからも行われていたということです。

ちなみにギリシア文化はキリスト教の異端のネストリウス派と単性論者(Monophysite)が、西洋から逃げてきてシリアに住み着いたがベースになります。これがアッバース朝の第2代カリフ、アル・マンスールが762年にバグダードを首都にした時に、ネストリウス派などの学者を招くところからイスラームでのギリシア文化の再発見が始まります。そして様々な文献が、ギリシア語からアラビア語への翻訳が行われていきました。

このイスラームでのギリシア文化が十二世紀になって、西洋に輸入されていきます。輸入は、最初はアラビア語から、その後はギリシア語からラテン語に翻訳されていきます。


こうやって書くと一瞬の話ですが、この流れを丹念に述べたのが本書です。ルネッサンスが十二世紀からはじまったというのは納得です。これまで十二世紀の重要さというのは認識していませんでしたが、ここが西洋の転換点だったのがよく分かる一冊でした。
posted by 山崎 真司 at 21:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会一般

2011年10月23日

プルーストとイカ

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
メアリアン・ウルフ
インターシフト
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神経科学、発達心理学者のメアリアン・ウルフの著書です。タイトルは変ですが、プルーストは”読書”、イカは”神経科学”のことです。

この本は大きく3つの部分からなります。1つめは主に西洋の文字の歴史2つめは字を読む時の脳の機能について、3つめは読字障害(ディスレクシア)についてです。


基本的には神経科学的な観点から読書について語るというものですが、繰り返し出てくるテーマがあります。それは、ソクラテスによる文字批判というものです。これは、ソクラテスは、文字が広まることでそれまでの口承文化が廃れていき、また文字に頼ることで人が考えなくなっていくというものです。口承文化については既に途絶えていますが、文字によって自ら考えなくなるという批判はこれまでも繰り返し行われているものです。

また、この批判を「口承文化から読書文化への移行の問題点」と見ると、ほぼそのまま「読書文化から検索文化への移行の問題点」と見ることもできます。もちろん「だから、検索文化はダメ」というわけではありません。


そして、本書の最大の山場となるのは神経科学(今風に言えば脳科学?)的に見た字を読む(≒読書)の際の脳の活動です。残念ながらそれほど詳細ではありません。いささか古い本ですが、苧阪直行著"読み―脳と心の情報処理"の方が示唆に富んでいると思いました。まぁ、神経科学の本と認知心理学の本ということで、それぞれが仕組みの説明と結果の説明と視点が違うわけですが..また、原著が2007年とかなり新しいのですが、ここの分野は今でもどんどんと開拓されているところなので、より詳しい類書を期待しています:->


本書の最後のポイントは読字障害(ディスレクシア)についてです。この本はとある読書会の課題本としてみんなで読んだのですが、そこでもこのディスレクシアについての言及が多かったです。残念ながらディスレクシアについては、日本ではあまり知られていないので、その啓発にもなっているのでしょうか。ディスレクシア自体については、この本は専門ではないのですが、ディスレクシアと脳について語った章は面白かったです。残念ながらこの分野の研究もいろいろと解明できているというよりも、手をつけはじめたばかりといった印象がありますが、字を読むということがどれだけ複雑な機構なのかというのが伺える章でした。


「人は言語能力が3歳までに決まる」という3歳神話や歴史上の人物のディスレクシア化など個別にはいろいろと突っ込みどころがあって残念でしたが、字を読むことについて考えるいいきっかけになる入門書とは思いました。


こちらの記事もどうぞ
怠けてなんかない! ディスレクシア-読む・書く・記憶するのが困難なLDの子どもたち

読み―脳と心の情報処理

朝倉書店
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posted by 山崎 真司 at 22:10| Comment(3) | TrackBack(0) | その他、一般

マホメット

マホメット (講談社学術文庫)
井筒 俊彦
講談社
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東洋思想、イスラム哲学を専門とする井筒俊彦の書いた小編です。

イスラームの成立当時の時代背景とマホメットを描いていますが。中心はベドウィン的世界観と、ベドウィン的な倫理観がどのようなものであったのかを描いている部分でしょう。

このベドウィン的世界観は、私の感覚では、昔ながらの血縁関係による”外と内”を中心としたもので、さらに血で血を洗う任侠的世界観とも見えます。このような民族としてのまとまりでなく、氏族としてのまとまりしかない時代に、旧約聖書的な”警告”をもって布教したのがマホメットです。

これを読むと、あるところから、マホメットが旧約聖書的な”警告”から、新約聖書的な”導き”へ転換をしたというのも興味深いです。


私はコーランを読んだことがないのですが、この本にあるようにコーランの節と、マホメットがそれを唱えた時代を分けて読むとなかなか面白そうだな、と思いました。
posted by 山崎 真司 at 20:56| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会一般

2011年10月13日

リーダーシップは教えられる

リーダーシップは教えられる (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)
シャロン・ダロッツ・パークス
武田ランダムハウスジャパン
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タイトル通りの本です。しかし、内容は意外にも(?)リーダーシップ論の本ではなく、リーダーシップの教え方の本です。

この本では、ケース・イン・ポイントという方法を使っての、リーダーシップ教授法の説明をしています。ケース・イン・ポイントは、ケーススタディの一種とも考えれます。ただし、ここで用いられるケースは、指導者があらかじめ用意したものでなく、参加者の一人の自身の過去のケースです。これはリーダーシップという普遍的な問題だから出来るのでしょうか。また、海外の大学院では、受講生が様々な職業を経験しているというのも関係しているでしょう。


この本では実際にケース・イン・ポイントの授業の例から説明しています。そのため、雰囲気は分かりますが、実際にはどのようにしてリーダーシップを教えるかやリーダーシップが何かをこの本から読み取るのは難しいです。

たしかにケース・イン・ポイントという手法はおもしろいですし、いくつかおもしろい点はありましたが、全体としてはよく分からないというのが正直な感想です。ある授業の風景や、インタビューしか書いていませんので。なお、このような教授法もやはり、海外ならではの豊富なTA(ティーチングアシスタント)の力があってこそ、だろうな、と思いました。
posted by 山崎 真司 at 06:51| Comment(0) | TrackBack(0) | その他、ビジネス書

2011年10月09日

論理哲学論考

論理哲学論考については、以前書いたのですが、改めて読書感想文形式で書いてみました。

論理哲学論考 (岩波文庫)
ウィトゲンシュタイン
岩波書店
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 私もご多分にもれず、子供の頃はゲーム好きでした。そのせいか大学時代に読んだ柄谷行人の本の中にあった「言語ゲーム」という言葉には不思議な魅力を感じていました。
 「言語ゲーム」というのはオーストリアの哲学者ヴィトゲンシュタインの提唱したものです。この「言語ゲーム」という言葉のひっかかりのせいか、学生時代からヴィトゲンシュタインには興味を持っていて、本も1冊持っていました。ですが、学生時代を終え社会人になって、10年以上たっても、その著作を読了することはありませんでした。結局、その本を読む前に手をつけたのが、このヴィトゲンシュタインの初期の著作”論理哲学論考”です。

 この”論理哲学論考”を買ったのは5年ほど前です。買った後も、しばらく放置してたまに読む、しばらく放置してたまに読む、ということを繰り返していました。
 この放置して読むという行為を繰り返すのは、この本の形式による読みにくさが原因です。しかし、この本の形式こそが同時にこの本の魅力でもあります。この本の最初の3行は以下のように始まります、

 1    世界は成立していることがらの総体である。
 1・1  世界は事実の総体であり、ものの総体ではない。
 1・11 世界は諸事実によって、そしてそれが事実のすべてであることによって、規定されている。
 
 このように節ごとの論理構造を明確にしてあり、その分だけ文章が削ぎこまれています。


 この削ぎこまれた文章は、哲学の本というよりむしろコンピュータのプログラムに投入する”世界のことがら”のデータといった印象ではないでしょうか?
 

 ”論理哲学論考”を読み進めると、上の例文のようにあくまでも厳密に”世界が何であるのか”を表現・分析しながら進んでいきます。論理記号などを駆使しながら、世界がなんであるのか語っています。この本を読み進めていく行為は小説や他の本を読むことなどと全く異なります。その行為は読んでいくというよりも、直に論理を読み取っていくような読書体験を生みます。そして、そのミニマルな文章の美しさと、論理展開の明瞭さに惹かれます。

 その行為の心地よさと、一方で形式による読みにくさに苦しみながら進めていくと、この本は6.41で大胆な転回が起こります。

 「世界の意義は世界の外になければならない」という指摘です。
 
 このゲーデルの不完全性定理を思い起こさせる一文に、哲学的な説得力があるかどうかは疑問があります。しかし、このダイナミックな転回が、この本の一番の見所です。世界の分析をしていたはずが、この6.41から主題が一気に”哲学とはなにであるのか”と変わって行き、最後の有名な一文である「7 語りえぬものについては、沈黙せねばならない。」へと向かいます。
 
しかし、この有名な結論よりも、そこへ至る精緻な論理と大胆な転回という読書体験こそがこの本の価値です。知識を得るためでなく、まさに読書のための本というのが本書の最大の魅力なのです。
posted by 山崎 真司 at 06:52| Comment(3) | TrackBack(0) | 哲学、人生論

2011年10月07日

考えなしの行動?

考えなしの行動?
考えなしの行動?
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ジェーン・フルトン・スーリ IDEO
太田出版
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様々な物を人はどう、「正しくなく」使うのか、という本です。様々なシーンの写真が載っていて、そこからインスパイアされるような作りになっています。つまり、基本的にはある種の写真集です。

内容はいかにもIDEOの本といった感じで、IDEOがフィールドで撮った写真がいろいろと載っていて、アイデアの訓練にはおもしろい本です。


ちなみに何故か翻訳があの森博嗣です。なんでだろ...

アフォーダンス実践編といった本でしょうか...ノーマン好きにもオススメ。この本をどう使うかは悩ましいところですが、興味ふかい本ではあります。


誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)
ドナルド・A. ノーマン D.A. ノーマン
新曜社
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複雑さと共に暮らす―デザインの挑戦
ドナルド・ノーマン
新曜社
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posted by 山崎 真司 at 05:50| Comment(0) | TrackBack(0) | その他、ビジネス書

2011年10月06日

マネージャーの実像

マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか
ヘンリー・ミンツバーグ
日経BP社
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”マネージャーの仕事”の続編といった本です(30年くらい前の本だと思いますが)。もちろん、”本では、MBAが会社を滅ぼす”のような他の本の内容も若干入っていますが、基本的には”マネージャーの仕事”と同じ主張です。

つまり、マネージャーの仕事の本質は、混沌であり、非定型の仕事や雑用や割り込みの只中にあるというものです。

この本では様々な組織の様々な階層の29人のマネージャーの行動観察と、様々なリーダーシップ論などの論文の参照を元にマネージャーとはどういうものであるのか、そしてどういうものではないのか、を明らかにしています。


内容自体は”マネージャーの仕事”とそれほど変わらないという印象ですが、それ以降の様々な研究を踏まえてどう変わったのか、という視点で読みました。そしてあまり変わらないという印象です。ちなみに、この本は、本当に参照文献・論文が多く、これだけしっかりを調査しながら書かれている本というのは、読んでいて気持ちいいです。

マネジャーの仕事
マネジャーの仕事
posted with amazlet at 11.10.06
ヘンリー ミンツバーグ
白桃書房
売り上げランキング: 76200

posted by 山崎 真司 at 16:50| Comment(0) | TrackBack(0) | その他、ビジネス書